第27章 All for you…
夢を…
とても幸せな夢を見ていた…
夢の中で俺は、スターさながらに、全身が焼け付くくらいに熱くて、眩しいスポットライトを無数に浴びて踊っていた。
凄く輝いていた。
そしてそんな俺を、ステージの袖から見守っていたのは…
あれはそうだ…、翔だ…
翔が見てくれている…、それだけで幸せだった。
それだけで俺は輝いていられた。
ずっと…、ずっとそうしていたかった…
でももう翔はいない。
そのことが悲しくて、寂しくて…
「智、起きて?」
軽く肩を揺さぶられ、眠りから覚めた俺は、濡れた頬を手の甲で乱暴に拭った。
微かにぼやけた視界を車窓に向けると、そこには見たこともない、でも確かに“それ”と分かる建物がそびえ立っていて…
「ここ…は…?」
何故こんな場所に連れて来られたのか分からない俺は、戸惑いの視線で隣のニノを見た。
「降りよっか…」
ニノは俺の問いに答えることなくシートベルトを外すと、先に車を降りて、俺の手を引いた。
そして近藤も、
「会わせたい人がいると言ったろ?」
中々車から降りようとしない俺を、特別急かすわけでもなく覗き込んだ。
近藤の“会わせたい人”ってのが誰のことだかは知らない。
でもここまで来て帰ることも出来ず…
「分かった…」
俺は諦め半分で車を降りて、慣れた足取りで先を歩く近藤の後を、ニノと並んで着いて行った。
勿論、俺達の手は繋がれたままだ。
「こっちだ」
入口で受け付けを済ませ、建物の奥へと進むと、ある種独特な匂いが鼻をついた。
三人でエレベーターに乗り込むと、それは更に強くなり…
わけもなく動悸が激しさを増す。
一体こんな所に誰が…
俺の不安をよそに、エレベーターは最上階で止まり、それまで閉ざされていた小さな世界から、突然開けた世界へと続く扉を開いた。
「着いて来い」
「こっちだよ」
俺は二人に促されるまま、重苦しい気持ちと、鉛のような足を引き摺り、全面を硝子に覆われた通路の奥へと足を進めた。
そうして進んで行くうち、いくつかある中の、一つのドアの前で近藤の足がピタリと止まった。
「ここだ。開けてみろ」
振り返った近藤が、戸惑う俺の背中を押した。