第27章 All for you…
「ねぇ、智? どうして翔さんがそんなこと言ったんだと思う?」
泣き顔に無理矢理笑顔を作って、ニノが俺を覗き込む。
「分かんねぇ…よ…」
「そう…だよね…。翔さんが前に言ってたことがあるんだ、智には誰かのためなんかじゃなく、自分自身…智自身のために踊って欲しい、って…」
俺…自身のため…なんて…
「無理だよ…、俺は翔がいてくれたから…」
だから踊っていられただけで、もし翔がいなかったら、俺はとっくにダンスなんて捨てていた。
その俺に、翔への思いを捨てて、自分のためだけに踊る…、なんてこと出来っこない。
それにそんなこと今更言われたって、この状況すら飲み込めていない俺には、何一つ理解することなんて出来ない。
俺は激しく頭を振ると、管やらコードやらに繋がれて、ベッドに横たわる翔に駆け寄った。
「翔…? 翔…、俺だよ、智だよ…? なあ、翔…?」
何度呼びかけても、身体を揺すっても、翔は目を開くことも、指を動かすこともない。
「翔さんね、あれからずっと意識が戻らないままなんだ…」
「あれ…から…って…?」
「智を上島の所から連れ出した日…、あの時翔さん、上島に刺されて…」
翔が…、上島に刺された…?
上島が、翔を…?
「そん…な…。じゃあ…、翔は俺のために…?」
「うん。智を取り戻したい一心で…、必死だったんだろうね…」
「…っだよ、それ…」
人には散々“自分のために踊れ”って言っといて、自分はこのザマかよ…
「意味分かんねぇよ…」
俺は翔の体温を少しでも感じたくて、力なく投げ出された手を握ると、そのまま濡れた頬に触れさせた。
その時、背後でドアの閉まる音がして、それまであったニノと近藤の姿が、消毒薬の匂いに満ちた部屋からなくなっていた。
「馬鹿だな、お前…。俺なんかのために、こんな…」
俺のことなんて捨てちまえば良かったのに…
いや、寧ろ俺は、とっくに見限られているとばかり思っていた。
なのにまさかこんなことになっているなんて…想像もしていなかった。
「翔…、お前の声が聞きたいよ…。お前の腕に抱かれてぇよ…。なあ翔…愛してんだよ…、俺、お前のこと…」
俺は管に繋がれ、それでも尚確かな呼吸を繰り返す唇に、そっと自分のそれを重ねた。