第27章 All for you…
それからと言うもの、俺は暇さえあれば坂本のスタジオに通い、ヘトヘトになるまで踊り明かした。
ニノはそんな俺を心配したけど、不思議とそうしていることで、フラッシュバックは時折あったものの、それまで脳を支配するかのように襲ってくる薬への渇望も、自然と起こらなくなっていた。
楽しかった…
踊ることが…、リズムに合わせて身体を動かすことが、楽しくて堪らなかった。
そんな気持ちになったのは、もしかしたら初めてだったのかもしれない。
踊っている時だけは、全てを忘れられるような…、そんな気がしていた。
そんな時だった…
近藤と交わした約束の期日まで、丁度一週間を切った頃、近藤が俺をある場所へと誘った。
一分一秒も無駄にしたくなかった俺は、当然のようにその誘いを断ったが、近藤の“どうしても合わせたい人がいる”と言ったその言葉と、ニノにしては珍しく強い口調の“今合わなければ絶対後悔することになる”の一言に押し切られ、俺は嫌々ながら近藤の運転する車に乗り込んだ。
「なあ、いい加減行き先くらい教えろよ」
どんどん都会の喧騒から遠ざかって行くことに不安を感じた俺は、無言でハンドルを切る近藤に尋ねた。
でも近藤は何一つ俺の問いかけには答えてくれず…
「ニノ…」
俺の隣で、俺の手をずっと握ったまま、車窓に視線を巡らせるニノに縋るような視線を向けた。
「知ってんだろ? なあ、教えてくれよ…」
どうしてだろう…
不安で不安で仕方ない…
二人を信じていないわけじゃない…
なのに何一つ俺の問いに応えてくれない二人に、不信感だけが募って行く…
俺は車が信号待ちで止まった瞬間、後部座席のドアを開け放ち、外へ飛び出そうとした。
「智…っ!」
でもニノと固く繋いだ手が、咄嗟の衝動に駆られた俺を引き止めた。
「大丈夫。大丈夫だから…」
俺よりも力弱いくせに…
分かっていながらも、この時ばかりはその手を振り切ることが出来なかった。
ここでニノの手を振り切ってしまえば、全てがまた振り出しに戻ってしまうような、そんな気がしたから…
俺はニノの胸に顔を埋めると、静かに瞼を閉じた。
「着いたら起こして上げるから、少し寝るといいよ」
「ん…、そうする…」
俺は全ての意識を、ピタリと付けた耳から伝わってくるニノの鼓動だけに集中させた。