第27章 All for you…
ダルクを出て近藤の元へと戻った俺は、一息付く間もなく坂本の元を尋ねた。
本格的な復帰に向けて、坂本のレッスンを受けるためだ。
坂本は何も言わず俺を受け入れてくれた。
いや、実際には“受け入れた”わけじゃない…、坂本も近藤と同じ…、俺の本気を試していたんだ。
その証拠に、俺が坂本から直接レッスンを受けることは一切なく…
その代わりに、スタジオで待つ俺の元へと寄越したのは、かつて俺が振り付けをしたこともある、菊池風磨だった。
今の俺は、坂本のレッスンを受ける価値もないってことか…
俺は心の中で自嘲すると、風磨に言われるままに身体を動かした。
久しぶりに履くダンスシューズと、足の裏に感じる板の感触…
どれもが、以前は自分の身体の一部のように感じていた筈の物が、まるで違和感にしか感じられなくて…
鏡に映る、初心者レベルのステップさえ踏めない無様な自分に腹が立った。
こんな筈じゃない…
以前の俺は、もっと踊れた筈なのに…
悔しくて、情けなくて、繰り返し同じステップを踏みながら、俺は込み上げてくる涙を、シャツの袖で拭った。
「少し休みましょうか…」
突然足を止めてしまった俺に気付いた風磨が、鏡越しに俺に声をかける。
「悪ぃ…、俺のために時間割いてくれてんのに…」
「何言ってんですか…。俺、智さんとこうして一緒に踊れるだけで、最高に幸せ感じちゃってるんですから」
長く伸びた前髪を掻き上げ、風磨が汗の粒が光る頬を綻ばせる。
「俺なんて…、まだまだ全然…」
幼稚園児のお遊戯にも及ばないレベルなのに?
「そうですね…、以前の智さんを知ってる身としては、今の智さんは驚く程何の魅力も感じないかもしれませんね…」
やっぱりな…
俺はスタジオの壁に背中を預けて座ると、タオルを頭から被った。
これ以上みっともない姿を見せたくなかったから…
「でも俺思うんです…。ありのままの智さんでいいんじゃないかって…」
「ありのままの…俺…?」
「そう…若しくは“生まれ変わった智さん”とか…?」
「は? お前…何言ってんの?」
全然分かんねぇよ…
「だってゼロからのスタート…なんですよね? だったら、これからどんな智さんにでもなれる、ってことなんじゃないですか?」
新しい…俺…?
新しい俺の…ダンス…?
「ふ…、面白ぇじゃんか(笑)」