第27章 All for you…
「俺に用って何?」
紫耀は俺の顔を見るなり、怪訝そうに眉を潜めた。
「俺…さ、明日ここを出ることになったんだ…」
「へ、へえ…、良かったじゃん…」
紫耀が心から喜んでくれていないのは、その口振りからも分かった。
仕方ない…、こうなったのも元を正せば、俺が悪いんだから…
「用はそれだけ? 他にないなら…」
「待てよ…、まだ話済んでねぇし…」
早々にその場を立ち去ろうとした紫耀の腕を掴んで引き留める。
目を合わせようともしない紫耀を強引に振り向かせ、翔とそう大して変わらない高さにある顔を見上げた。
「俺、もう一度ステージに立つから…。時間かかるかもしんねぇけど、必ず夢叶えるから…、だから…」
だからお前も夢、棄てんな…
今は無理でも、きっといつか叶えられる日が来るから…
だから…、諦めんな…
伝えたい言葉が次々溢れるのに、胸が詰まって声にならなくて…
口下手な自分が恨めしく思えて来る。
「何で俺に?」
「それ…は、そう思わせてくれたの、紫耀だから…」
紫耀と出会わなければ…、紫耀がいなければ、もう一度夢を見ることなんて、きっと出来なかったから…
「お前には感謝してる…」
ただただ踊ることが好きで、我武者羅に踊り続けていたあの頃の情熱を思い出させてくれて…
俺の背中を押してくれて…
「別に俺は何も…。って言うかさ、ずっりーよな…、お前だけ…」
「ごめん…」
俯いてしまった俺の頭に、紫耀の少しだけ大きな手が乗せられ、洗いざらしの髪がクシャッと混ぜられる。
そう言えば、翔も良く同じことをしてたっけ…
込み上げて来る懐かしさに、思わず笑いが零れた。
「俺、頑張るからさ…、だからいつか、いつの日か同じステージに立とうぜ? 俺、待ってるから…」
俺達みたいに過ちを犯し、廃人同然にどん底を見た人間が、真っ当な生き方なんて、もしかしたら出来ないのかもしれない。
その道は平坦ではないだろうし…
きっとその途轍もなく過酷な試練が待ち受けてるだろうし…
それでも俺は決めたんだ…、夢を諦めないって…
紫耀のために…
そして、俺が愛した唯一の男、翔のためにも…