第27章 All for you…
「なあ…、これって…」
驚いて顔を上げた俺とは対照的に、近藤は驚く程平然とした様子でスマホを俺の手から取り上げると、
「見ての通りだ。あとどうするかは、智…お前次第だがな?」
まるで俺の本気を確かめるような、そんな口振りで言うと、近藤には珍しく、唇の端を意地悪く持ち上げて見せた。
その様子に、近藤がただ単に俺の言い分だけを聞きに来たのではなく、燻り始めた俺のダンスへの情熱に、今後一切消えることのない火を点けるためだけに来たのだと、瞬間的に感じ取った俺は、ニノと繋いだ手はそのままに、テーブル越しに近藤を睨み付けた。
「分かった、間に合わせる。その代わり、俺をここから出してくれ」
俺の身元保証人は、両親でもなく、まして翔の親父さんでもなく、近藤になっていた筈だ。
近藤さえ受け入れの意志を示せば、後は所長の判断に委ねられることになる。
尤も、当面の間通所は必要になると思うけと…
それでも今よりは…
今のこの限られた時間と、制限された環境では、口では間に合わせると言ったものの、やっぱり自信がない。
「良いだろう。話は通しておく」
「悪いな、あんたには迷惑かけっぱなしで…」
もし近藤がいなかったら…
俺は今頃どうなっていたか…いや、もうこの世にはいなかったらかもしれない。
それはそれで、翔の近くにいられるんだろうけど…
「ニノも…、色々心配かけたけど、もう大丈夫だから…」
もう一度ステージに立つために…
命懸けで俺を守ってくれた翔のために…
「俺…頑張るから…」
「智…」
「馬鹿…、泣いてんじゃねぇよ…」
ニノが泣いたら、俺だって泣きたくなるじゃんかよ…
「ごめん…。でもさ、俺嬉しいんだもん…。智が、俺の知ってる智に戻ってくれたことが、嬉しくて…」
正直、薬に溺れていた頃の俺がとんなだったかなんて、今となっては思い出せないくらいに、記憶が薄れてしまっているけど、ニノにこんな涙を流させるくらいだから、相当…だったんだろうな…
「ごめんな、ニノ…」
今度は俺の方から、殆ど体格差のないニノの身体を強く抱きしめた。
それから程なくして、近藤の口添えもあってか、退所の許可が所長と、支援団体から下された。
予想した通り、通所の条件付きではあったけど…
そして、退所を翌日に控えた夜、俺は施設内にある倉庫に紫耀を呼び出した。