第27章 All for you…
俺の気持ちを察したのか、紫耀はそれきり何も言いはしなかった。
けどその代わりに…なのか、俺とはもう一緒に踊らない、ダンスも辞める、と言い出して…
俺も、そんな紫耀の子供じみた我儘には付き合いきれないとばかりに、紫耀と一緒に踊ることをピタリと辞めた…と言うよりは、ダンスそのものから遠ざかろうとした。
でも遠ざけようとすればする程、ダンスへの欲求は深まるばかりで…
テレビから流れる、たった数秒の音楽にでさえ、身体が疼くのを感じた。
結局、俺はダンスからはどうやったって逃れられないんた…
そう気付いた時、施設内の倉庫の片隅で、無音の中、ひたすら汗を飛ばして踊る紫耀の姿を見かけた。
なんだ…、アイツも結局俺と一緒じゃねぇか…
ダンスを捨てきれないのは、何も俺だけじゃないってことだ。
俺は施設長を通じて、近藤に連絡を取って貰うことにした。
ダルクでは、外部の人間と直接連絡を取ることは禁じられているから…
俺は近藤に、自分がまだダンスへの情熱を捨てきれないこと、そして許されるのであれば、もう一度ステージに立ちたいと思っていることを打ち明けた。
近藤は大して驚いた素振りも見せず、電話口ではなんだからと、施設長に俺の外泊の許可を申し出た。
でも、いくら近藤からの申し出とは言え、そんなに簡単に許可が下りるわけもなく…
数日後近藤は、近藤の養子となったニノを連れて、ダルクを訪れた。
ニノは俺の顔を見るなり、大粒の涙をボロボロと流し、何も言わずに俺を強く抱き締めた。
それからはずっと俺の手を握ったままで…
「逃げたりしねぇから…」
俺がどれだけ言っても、その手を離してくれようとはしなかった。
俺には、もうどこにも行く所なんてないのに…
近藤はそんなニノを、特に咎める様子もなく、俺の肩を叩くと、
「元気そうだな」
たった一言、そう言って、自分のスマホを俺に差し出した。
「なに?」
首を傾げる俺に、近藤は表情ひとつ変えることなく、
「オープンは半年後。それまでに間に合うか?」
俺に問いかけた。
当然、近藤が何を言っているのか分からない俺は、改めて近藤が差し出して来たスマホに視線を落とした。