第27章 All for you…

楽屋からステージに続く通路に出ると、見知った顔がいくつも並んでいて、皆一様に舞台衣装に身を包んだ俺を拍手と、そして新人ダンサー達の羨望の眼差しが、俺を出迎えてくれた。

正直こんな風にされるのは、照れ臭いのもあるけど、それ以上に俺の復帰にかける期待を感じずにはいられなくて…

｢あれれ、智固まっちゃってんじゃん(笑)｣

｢う、うるせぇ…、衣装が重すぎんだよ…｣

揶揄う雅紀に言い返してはみたものの、実際には足が竦んでしまって、思うように身体が動かない。

前はこんなんじゃなかったのに…

今はステージに上がることが、怖くて堪らない…。

｢智、身体の力抜いて？ ね？｣

｢ニノ…、俺…｣

｢大丈夫、皆智の味方だから…、安心して？｣

分かってる…

今日俺のステージを見に来る客全てが敵じゃない、ってことは分かってる。

でも…、やっぱ怖ぇよ…

怖くて怖くて…、この場から逃げ出したくなる。

｢あの、さ…、智？ きっと見てるから…｣

ニノの腕が、俺を衣装ごと包み込む。

そして雅紀も…

｢そうだよ、きっと伝わるからさ…、だから泣かないでよ…｣

両目に涙をいっぱい溜めて、俯いてしまった俺を覗き込む。

｢でもアイツは…もう…｣

そう…、何がこうも俺を不安にさせるのか…

その理由は、俺自身が一番良く分かってる。

アイツが…
俺が誰よりも傍にいて欲しいと願う、アイツがここにはいないからだ…。

翔に傍にいて欲しいのに…

｢緊張なんかしてんじゃねぇよ、馬鹿｣

って抱きしめて、キスして欲しいのに…

なのに翔はもうここにはいない。

そのことが俺の不安を掻き立てる。

｢ねぇ、智？ 翔ちゃんが智の傍から離れられると思ってんの？｣

｢えっ…？｣

｢馬鹿だなぁ…、だって翔ちゃんだよ？ あの翔ちゃんが智から離れられるわけないじゃん(笑)｣

｢そうだよ、翔ちゃんだもんね？｣

｢幽霊になってでも、智の傍からは離れないって｣

｢ひっでぇ言い方…。でも…｣

そうだよな…、翔はいつだって俺の隣に…

｢ありがと…な…。俺、行って来るよ…｣

翔が惚れ直すくらい、最高のステージにしてやるよ…。

だから見ててくれよな…、翔！

俺は一瞬天を仰ぎ、そこに翔の顔を思い浮かべると、ステージに向かって一歩…また一歩と足を進め始めた。