第27章 All for you…
「完成です」
健永の声と共に、俺は閉じていた瞼を開いた。
「どうです? 気になるトコあったら手直ししますけど…」
鏡に映る自分を見つめたままの俺に、健永が鏡越しに不安な目を向ける。
「いや…、そうじゃなくて…、なんて言うか…、俺じゃないみたいで…」
不思議な気分になる。
「問題なければ、着替えちゃいましょうね」
「あ、ああ、うん…」
ハンガーラックにかけてあった衣装を取り、健永がやっぱり手際良く準備をして行く。
俺はそれを見ながら、着ていたシャツを脱ぎ、ジーンズを脱ぎ、続けて下着に手をかけた。
すると健永が慌てたように、
「裸になるわけじゃないんで、下着はそのままで…」
俺の手を止めた。
「あ、そっか…、そう…だった…、つい癖で…」
もうストリッパーとして、ステージに立つ必要はなくて、一人のダンサーとして、ステージに立つ…
そう…、ダンサーとしての資質が問われるんだ…
それが嬉しくもあり、でもとこか複雑な心境は拭えなくて…
でも不安な素振りを見せることなく、俺は健永にされるがままに、衣装を見に纏った。
「どうします? ウィッグも着けます?」
「どう…なんだろう…、あった方が良いとは思うけど…」
大分取り戻したとはいえ、今の自分の体力では、この衣装を身に着けて踊ることすら、若干の不安があるのに、そこへ来てウィッグまでは…、正直自信がない。
「せっかく用意してくれたけど、このままでいいや…」
「そうですね。このままでも十分綺麗ですしね?」
綺麗…か…、そんな言葉、今の俺には不釣り合いなくらいなんだけど…、でも嫌な気はしない。
俺は鏡の中の自分と向き合い、静かに瞼を閉じた。
少しだけ重たくなった睫毛が、微かに震える。
緊張なんて、らしくもない…
俺は自分自身に自嘲しながら、閉じていた瞼を開いた。
「随分気合の入った顔してるじゃないか」
「まあね…。アンタに恥じかかせない程度に頑張るよ…」
「ああ、そうしてくれると助かるな。何せ俺の古くからの友人も、わざわざ海外から今日のステージを見に来てくれてるからな…」
世界的ダンサーの友人とやらがどんな人かは知らないが、俺は俺のために踊るだけだ。
「行ってくる」
「おお、行って来い…、智」
俺は坂本に背中を押され、以前よりも随分と綺麗になった楽屋を出た。