第26章 Missing heart…
松本から聞かされたホテルに着いた俺は、車を正面入り口付近ではなく、裏口…非常口のある付近に停めた。
幸いなことに、何度か利用したことがあるホテルだから、ホテル内部の構造は把握している。
最悪の場合、ここから智を連れ出せば…
話し合いで穏便に済ませれば良いが、相手がどう出るか分からない以上、念には念を入れてのことだ。
俺はスペアキーをシリンダーに差し込んだまま車を降り、リモコンキーでドアをロックしてから、正面入り口に回った俺は、近藤に言われた通りフロントに向かい、”植草”と言う男を呼び出して貰った。
本音を言えば、一分でも一秒でも早く智のいる部屋に乗り込みたいところだったが、焦れる心を無理矢理抑え込んでフロント近くのソファーに腰を下ろした。
そうして数分後、俺の前に現れたのは、見た目こそ若くは見えるが、ホテル支配人の男で…
まさか近藤がホテル支配人にまで顔が利くとは思っていなかった俺は、改めて近藤と俺との格の違いを感じさせられずにはいられなかった。
「植草…さん、ですか…?」
「櫻井さんですね? 近藤様からお話は伺ってます。お探しの方は最上階のセミスイートに、かれこれ一か月近くですか…、長期のご宿泊をされているようですね」
「じゃあ、あれからずっと…?」
「そういうことになりますね」
松本の話は事実だった、ってことか…
周到な男だ、智が近藤の家を飛び出し、その後どうやってあの男の居所を探り当てたのかは知らないが、それからずっと智は…
俺は握りしめた拳に力を籠め、奥歯をギリッと噛んだ。
「ありがとうございます。俺はこれで…」
「お待ち下さい…」
少しの時間も惜しくて、俺は早々に踵を返そうとした俺の腕を、植草の手が掴み、引き留めた。
「まだ何か…?」
あの男の居場所さえ分かれば、もう植草に用はない。
振り向いた俺の顔は、相当険しかったんだろうな…
植草がやれやれと言った風に首を振った。
「私も一緒に行きます」
「は? いや、でも…」
「近藤様にも頼まれてますし、それに何より、貴方がいきなり乗り込んで行っても、あの方はドアを開けることすらしないでしょうから…」
そう言って植草は、胸のポケットから一枚のカードを取り出した。