第26章 Missing heart…
路肩に車を停め、スマホを手に取った。
「もしもし…」
しようとすれば無視することも出来た。
でもあえてそうしなかったのは、近藤にだけは本当のことを打ち明けておきたかったから。
場合によっては、近藤の手を借りることになる可能性も含めて、のことだ。
尤も、本気で近藤の手を借りるつもりなんて、俺にはこれっぽちもねぇけど、相手が相手なだけにある程度の保険は掛けておきたい。
そう思って電話には出たんだが…
近藤から返って来たのは意外な言葉で…
まさかこのタイミングで雅紀がニノに電話をかけるとは…、思ってもなかった。
ただ”チワワ”のことを頼みたくてかけた電話が、雅紀に不安を与えることになったなんてな…、とんだ計算違いではあったけど、却って手間が省けたと思えば、雅紀には申し訳ないが、儲けモンってことか…
それにずっと気にかかっていた雅紀とニノの関係も、これを機に少しは前進してくれるなら、それはそれで俺も肩の荷が下ろせるってもんだ。
「それで、近藤さんに頼みたいことが…」
俺は近藤に、松本から聞いた智に関する情報を、包み隠すことなくすべて話した。
近藤は終始黙ったままで俺の話を聞き終えた後、
「分かった」
と、小さく呟くと、
「但し、無茶だけはするなよ? 君ににもしもの事があれば、悲しむのは智だからな?」
そう言って、息を一つ吐き出した。
「分かってます」
恐らく近藤は、これから俺が対峙しようとしている相手の恐ろしさを知っている。
俺なんかよりも、うんと多くの場数を踏んで来た人間だ、その近藤が言うんだ、素直に従うしかない。
「それから、奴の滞在しているホテルだが、ちょっとばかり伝があってね…。俺から連絡を入れておくから、着いたらフロントの植草と言う男を尋ねなさい。彼が手を貸してくれる筈だから…」
「いや、でもそれじゃ貴方に迷惑が…」
「何気にすることはないさ。それに俺もあの子のことは今でも大切に思っているからね」
そう言ったきり、近藤は口を噤んだ。
きっとまだ近藤の心の中には、智の存在が色濃く残っているんだろう…
「分かりました、尋ねてみます。お心遣い感謝します」
必ず智を連れて帰るから…
俺は胸の中で何度目かの決意をしてから、近藤との電話を切った。