第26章 Missing heart…
「時間だ」
愕然とする俺と、アクリル板の向こうで自責の念に駆られ項垂れる松本に、面会時間の終了が告げられる。
「立ちなさい」
命じられても、椅子から立ち上がろうとしない松本の腕を、警察官が掴む。
そうして漸くのろのろと立ち上がった松本が、俺に向かって身体が二つに折れ曲がるくらいに深く頭を下げた。
その姿はまるで、
「智を頼む…」と…
そう言っているようで…
俺は小さく震える肩を、ただ眺めることしか出来ない自分を恨めしく思いながら、鉄の扉から出て行く松本の背中を見送ることしか出来なかった。
そすさて扉が閉まりかけたその時、一瞬…松本が俺を振り返った。
その顔は、智がずっと大切にしていたあの写真の笑顔その物で…
俺は思わずパイプ椅子をなぎ倒し、立ち上がると、硬いアクリル板に拳を叩き付けた。
智は必ず俺が取り戻すから…、だから…
「いつか…、また会うことがあったら…、その時は…、お互い昔話を肴に、酒でも酌み交わそうじゃねぇか…。な、松本…?」
尤も、それが叶えば…、の話だけど…
松本との面会を終え、拘置所の門を潜った俺を、激しく降りつける冷たい雨粒が濡らした。
「智…、今どうしてる? お前、雨嫌いだったよな? 一人で泣いてんじゃねぇのか?」
智が降る日は、必ずと言っていいほど、一人でいることを嫌がった。
今もそうなんじゃねぇのか?
「でももう一人にはしねぇから…。俺が迎えに行くから、そこで待ってろ…。な、智…」
俺はシートが濡れるのも構わず、びしょ濡れの身体を運転席に沈めた。
そしてついさっき…、拘置所を出る直前に俺の手に戻って来たスマホを取り出すと、マンションで“チワワ”と一緒に留守番をしてくれている雅紀に電話をかけた。
「あ、翔ちゃん? どうだった? 松本…だっけ? 会えたの?」
矢継ぎ早に質問を投げかけてくる雅紀に、俺は苦笑しながらも、熱くなった目頭を手で覆った。
「会えたよ…、ちゃんと智の居場所も聞き出した」
「そっか、良かった…。あ、でさ…」
「ごめん、雅紀…。暫く“チワワ”頼めるか? もし無理なら、ニノに返してくれていいからさ…」
言いかけた雅紀を遮り、俺は言葉を続けた。