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踊り子【気象系BL】

第26章 Missing heart…


何が悲しくて涙が零れるのか…

俺は理由も分からずに、ただ涙を流し続けた。

「智がステージに立つ前、いつも欠かさずしていたことがあるんだ…。何か分かるか?」

「…さあ…」

当然だ。

ずっと見ていた…、ずっと傍にいた俺だからこそ知っている智の姿を、コイツは知る由もない。

「アイツな、いつもステージに上がる直前に、決まってお前の写真に向かって言うんだ…“行ってくる”ってな…。それでステージが終わると、またお前の写真に向かって言うんだよ、“ただいま“ってな…」

俺はそんな智の姿を、幾度となく見てきた。

どうして俺じゃないんだ、と…
こんなに近くにいるのに…

どうして…!

「悔しかったよ…。どうやったって死んだ人間には適わねぇからな…。どれだけ他の奴に抱かれたとしてもな…」

それが悔恨の念だったのか、それとも単純に思慕の念だったのか…、それは俺には分からない。

それでも確かに智の心の片隅には、いつだって松本がいた。

「そん…な…。智はそんなことも…」

だろうな…
アイツはそう言う奴だ。

この俺にでさえ、アイツは本心を曝け出すことはなかったんだから…

「なあ、松本…。教えてくれないか? 智は今どこにいる? 知ってんだろ?」

わざわざ俺をこんな場所まで呼び付けたんだ、松本は智の行方を知っている筈だ。

「来たんだろ、智がここに…」

俺の問いに、松本が無言で頷く。

「やっぱりか…。な、頼む…、教えてくれ」

俺は両手を台に付け、松本に向かって頭を下げた。

「アイツを…智を失いたくねぇんだ…」

いつからだろう…

松本がかつてそうであったように、俺にとって智がかけがえのない存在になったのは…

「必要なんだ…、智が…」

情けない話だが、智と離れてみて初めて気が付いたんだ…

俺は智がいなきゃ、一人では立ってらんねぇって…
智のいない世界では、息をすることすら出来ねぇって…

「愛してんだ…、もう智無しじゃ生きてけねぇんだ…」

こんなにも誰かを想って涙を流したのは、もしかしたら初めてのことかもしれない。

「負けたよ…」

「えっ…?」

「アンタには適わないって言ってんだよ」

「じゃ…じゃあ…?」

「ああ、教えてやる。但し、絶対に智を連れ戻すって約束してくれるならな?」

当然だ…
俺は智のためなら…
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