第26章 Missing heart…
再び訪れた沈黙の時間…
でもそれはそう長くは続かなかった。
松本はそれまで固く結んでいた手を解き、目にかかる程伸びた前髪を掻き上げた。
「智があの事故の後行方不明になっていたことは、高校時代の同級生とのSNSを通じて知った。勿論、ソイツも俺は死んだもんだと思い込んでたから、最初は驚かれたけどな…」
そりゃそうだ…
死んだと思っていた人間が、実は生きてたなんて…、それこそ狐にでも摘まれたような気分だったに違いない。
現にこの俺がそうだったんだから…。
「それで…? 智が行方不明になっていると知らされて、その後は…?」
「ネット上に、ダンスに関する情報を、自由に書き込める掲示板があるの…知ってるか?」
「ああ、それなら…」
確か以前智と一緒に見たことがある。
ダンススクールの宣伝か、若しくはテレビでも良く目にするようなダンスグループについての書き込みが殆どだったが、中にはプロを目指すストリートダンサーの投稿動画なんかもあったりして、智は興味深げに動画を見ていた。
「その掲示板が智と何の関係が?」
俺が見た限りでは、そこに智の動画はアップされていなかったし、智自身高校時代に無料動画サイトに投稿したきり、動画の投稿は一切していない筈だ。
なのにそこに智に繋がる手掛かりがあるとは、到底思えない。
「あったんだよ、そこに智の名前が、アンタの劇場の名前と一緒にね…」
「えっ…?」
確かにインターネットやSNSがこれだけ普及している時代だから、可能性ゼロではないが、それでも…だ。
「勿論、それが俺の探している”智”であるって保証はないし、もしかしたら人違いかもしれないって思ったよ? でも不思議なんだよな…、そん時の俺には変な確信みたいなもんがあってさ…」
自嘲気味に笑って、松本は長い睫毛に縁取られた瞼をそっと伏せた。
そして次に瞼が開かれた時、その目は過ぎ去った過去に思いを馳せるような…そんな遠い目をしていた。
「俺は藁をも掴む思いでアンタの劇場のホームページを開いた。そしたらさ、いたんだよ…アイツが…。それもダンサーとしてね…」
ストリップってのには驚いたけど…
そう言って松本は初めて俺の目の前で、とても穏やかな…優しい笑顔を浮かべた。