第26章 Missing heart…
松本に会ったら、聞きたいことが山ほどあった。
なのにいざとなると、どうしてこうも言葉が出てこないのか…
それどころか、本人目の前にした途端、頭ん中が真っ白になっちまうなんてな…
マジで情けねぇ…
自分の不甲斐なさに溜息を落としたその時、
「一つ聞いてもいいか?」
松本の方から切り出した。
「あ、ああ、どう…ぞ…」
「どうして智を捨てた」
「は、は…?」
俺が…?
この俺が智を…捨てたって…?
「ちょっと待て、俺がいつ智を捨てたって?」
未だに諦めきれずに藻掻いってるってのに…?
もし仮に俺達の間に”捨てた”って事実があるのなら、それは俺じゃねぇ、智の方だ。
智が俺を捨てたんだ。
尤も、俺はそんな風に思ったこともねぇけど…
「どっちにしても同じことだ。アンタが智を追い詰めて、それで…」
「だからちょっと待てって…。俺は智を捨てたつもりもねぇし、追い詰めたつもりもねぇ。ただ…」
「ただ…、何だ…」
ただ、あまりにも残酷な現実を受け入れ切れず、苦しみ、葛藤する智を、俺は支えるどころか、一番酷いやり方で傷付けた。
もしそれが松本の言う”追い詰めた”ってことなら、多分そうなのかもしれない。
でも俺は智を、あの真っ暗な闇の中から救い出してやりたかった。
以前のように、例え口数が少なくたっていい、ただ踊ることだけにひたすら情熱を注ぐ…、そんな智に戻って欲しかった。
なのに俺は…
「と、兎に角、俺は智を捨てちゃいないし、諦めてもいない。それに、こう言っちゃなんだが、最初に智を捨てたのは、寧ろお前の方なんじゃねぇの?」
「それ…は…」
一瞬…、松本の顔が引き攣り、動揺を隠せなくなった視線が宙をさまよった。
ずっと疑問だった。
わざわざ男娼にまでして手元に置く程、智を想っていた松本が、どうして死んだと偽ってまで智の前から姿を消したのか…
それがずっと胸の奥に引っかかっていた。
「智はお前の死は自分のせいだと思い込んで、一時は自殺まで考えていたんだ…」
「嘘だ…、智はそんなこと一言も…」
「傍にいた俺が言うんだ、嘘じゃねぇ…」
事実、出会った頃の智は、常に死と隣り合わせの状態にあった。
夜な夜な松本の名を呼びながら、詫びて涙を流す姿を、俺は何度も見て来たんだ。