第26章 Missing heart…
刑務所…程ではないが、厳重な警備と壁で守られた建物を前に、思わず足が竦んだ。
そりゃそうだ、生まれてこの方、警察の厄介になったこともなければ、刑務所や拘置所なんて場所に足を踏み入れたことだってないんだから…
俺は入り口で面会の受付を済ませると、手持ちの荷物を預け、言われるがまま待合室に入った。
殺風景な部屋で、誰とも言葉を交わすことなく順番が来るのを待つ。
何とも空虚な時間だが、それも仕方ない。
俺は静かに瞼を閉じ、その時を待った。
そして数分も経った頃だろうか…、待合室にアナウンスが流れ、俺の番号が呼ばれた。
俺は閉じていた瞼を開き、両手で頬をパチンと叩いた。
幸いにも周りに人はいなかっつから良かったものの、もしいたら確実に冷たい視線を浴びてるだろうな…
そんなことを想像しながら、俺は指定された個室のドアを開けた。
透明なアクリル板を前に、簡素なパイプ椅子に腰を下ろす。
テレビで見るよりも、若干狭く感じるのは、俺の気のせいだろうか…
俺は落ち着きなく、辺りを見回した。
すると、アクリル板の向こう側…、正面に位置するドアが開き、上下紫色のスウェットに身を包んだ、俺よりも少し背が高いだろうか、スラリとした青年がゆっくりとした足取りで俺に向かって歩み寄り、ストンとパイプ椅子に腰を下ろした。
これが…あの“松本潤”?
貴族探偵が以前、調査報告書に添付して来た写真とは随分と雰囲気が違って見えるが、それも口元に蓄えた無精髭と、何の手入れもされていない髪のせい…だろうか…
ただ、長く伸びた髪の奥に見える鋭さを備えた眼光は、正しく“松本潤”のそれで…
「初めまして…でいいのかな?」
俺は喉が引き攣れるのを感じながら、漸く言葉を発した。
すると“松本潤”は口の端を微かに持ち上げ、
「俺の方は初めましてでもないけどね?」
不敵な笑みを浮かべた。
コイツ…、やっぱりいけ好かねぇ…
なのにどこか俺と似た印象を受けるのは、やはり同じように智を愛している…からなんだろうな…
「手紙、ちゃんと届いたんだ? つか、届いてなかったらこんなトコ来ないか…」
「あ、ああ、まあ…、そうだな…」
そう言ったきり、アクリル板を挟んだ俺達は押し黙り、殺風景を通り越した無機質な面会室に沈黙が流れた。