第26章 Missing heart…
封筒から取り出した便箋を、恐る恐る開く。
そこに何が記されているのか…、考えると自然と手が震えたが、雅紀にそれを気取られたくなくて、至って平静を装ったように便箋に視線を落とした。
記されていたのは、ほんの数行…いや、数文字と言った方が正しいのかもしれない。
如何にも神経質そうな文字か並んでいた。
「松本、何て…? あ、言いたくなかったら別にいいんだけどさ…」
雅紀自身、ニノが絡んでいたこともあってか、松本の存在は気になるんだろう。
それに、特別隠すような内容でもないし…
「話がしたいから、面会に来いってさ…」
「話…って?」
「さあな…。つか、俺が聞きたいっつーの…」
俺は便箋を封筒に突っ込むと、フッと息を吐き出してから、ソファーから腰を上げた。
「留守番、頼めるか?」
「別に…いいけど…、出かけるの?」
小さなボールを相手に、無謀な戦いを挑む“チワワ”を視界の端で追いながら、俺を見上げる雅紀に、松本から届いた手紙の裏面をゆびでパチンと弾いて見せた。
「会いに行ってくる」
「今から?」
「善は急げって言うだろ?」
それに、雅紀にはあえて言わなかったが、手紙には“智のことで”と記されていた。
松本の方から“智のことで”と言うからには、智の行方についての情報を、松本自身が掴んでいるのかもしれない。
いや、もしかしたらそうじゃないかもしれない。
智に捨てられた俺を、ただ嘲笑いたいだけなのかもしれない。
仮にそれでもいい、一度は顔を合わせておきたいと思った男だ。
その男からの誘いを断る理由は、俺にはない。
「行ってくる。“チワワ”の散歩、頼むな」
「うん、行ってらっしゃい。“チワワ”のことは心配いらないから任せて。ね、“チワワ”?」
雅紀の腕の中で、“チワワ”が鼻をクンと鳴らし、クリッとした目で俺を見上げた。
「あんまり雅紀を困らせんじゃねぇぞ? 大人しくしてんだぞ? いいな?」
ま、俺に比べて雅紀は動物の扱い慣れてるし、要らぬ心配をする必要もないんだけど…
俺は“チワワ”の柔らかな毛並みを一撫でしてから、クンと鳴らした鼻先に自分の鼻を寄せた。
「行って来るからな。いい子にしてんだぞ?」
再度“チワワ”に言い聞かせてから、漸く玄関を出た。