第26章 Missing heart…
我が家同然だった劇場に通わなくなって、気が付けば一週間が過ぎていた。
とは言っても、その間ただぼんやりと時間を過ごしていたわけじゃないが、何もする気がなかったのは事実で…
俺のために、社内に然るべき部署を用意してくれた親父からの誘いも、まだ残務が残っているからと、適当な理由をつけては先延ばしにしていた。
実際、直接運営に関わることはなくても、親父の会社通じて…ではあるが、経営には関わるんだから、それも全くの噓ではなく、これまで劇場運営に関わってくれた関連企業への挨拶回りだけは、しっかりとこなしていた。
勿論、酒の誘いだって断ることはなかった。
そんな最中、忙しい合間を縫って、雅紀が俺の元を訪ねてきた。
当然俺は、慣れない支配人という立場への重圧に耐えきれず、愚痴でも漏らしに来たのだとばかり思っていた。
俺自身がかつてそうであったように。
でも雅紀の顔を見た瞬間、すぐに俺の懸念は無用だと感じた。
雅紀の目が、かつてないくらいに輝いて見えたからだ。
早速飛び付いていった“チワワ”を腕に抱いた雅紀は、ソファーに座るなり、俺に一通の手紙を差し出して来た。
「俺…に…?」
宛名には、確かに俺の名前も書いてある。
つか、俺“桜井”じゃねぇし、“櫻井”だし…
「多分…だけど、劇場宛に送ったら、確実に翔ちゃんに届くと思ったんじゃないかな…」
“チワワ”への土産のつもりか、犬用のビスケットを“チワワ ”に与えながら、横目でチラリと俺を見る。
「あ、別に中見たわけじゃないからね?」
「分かってるよ」
言い返しながら、俺は封筒の裏面に視線を落とした。
「えっ…? 何…で…」
俺はそこに記された名前を見るなり、思わず言葉を失った。
どうして…?
どうして彼が俺に手紙を…?
「俺もさ、一瞬時が止まったって言うかさ…」
雅紀が困惑の表情を浮かべた。
そりゃそうだ…
そこに記されていたのは、彼が拘置されている場所の住所と、検閲済みを証明する印と、そして彼…松本の名前が記されていたんだから。
俺は一瞬考えた後、ペーパーナイフを手に、しっかり糊付けされた封筒の封を切った。