第25章 End of Sorrow…
「むさ苦しい所ですけど、どうぞ…」
俺は近藤を部屋に招き入れた。
本当は、荷物だけを下ろして、エントランスで別れるつもりだった。
でも近藤は、思いのほか大くなった荷物を見て、部屋まで荷物を運ぶのを手伝うと言い出した。
有難かった。
俺一人だったら、エレベーターでも何往復かするのは確実だったから…
それに“チワワ”もいるし…
ただ、部屋に上げるのだけは、どうしてだか躊躇われた。
長いこと留守にしていたせいで、至る所に埃が溜まっているのもあったが、本音を言えば、比べられるのが嫌だったのかもしれない。
勿論、近藤と俺とでは、年齢も違えば、生活レベルだって、驚く程に違う。
片や一代で上場する程の企業を立ち上げた近藤と、劇場の運営を任されてはいるものの、世間的には二代目としてしか認められない俺とでは、全てにおいて差があって当然…
そんなことは、散々甘ちゃんだと言われてきた俺にだって分かる。
でもそれよりも何よりも、俺は近藤という男の懐のデカさには、どうしたってコンプレックスを抱かざるを得なかった。
その近藤が今、俺の目の前に座り、俺の煎れた安物のコーヒーを飲んでいるんだから、おかしなもんだ。
「すいません、何のお構いも出来なくて…」
「構わないよ。それより…」
カップをテーブルにコトリと置いて、近藤が両指を絡めた上に顎を乗せた。
「これからどうするつもりだい?」
「どうするって…何がです?」
「君は智を待つと言ったが、実際のところどうなんだい? 智の行きそうな所に宛でも?」
「ありませんよ、そんなもん…」
大体俺は、智のことを知らな過ぎる。
二人で暮らす中で、智が何を考え、何を思って来たのか…、そして智の過去に何があったのか…
貴族探偵から寄せられる情報で、ある程度のことは分かっているが、それだってどこまでが事実なのか、実際に確かめたこともない。
俺は一体、智の何を見てきたんだろう…
「そうか…。もし俺に出来ることがあれば、遠慮なく言ってくれ。俺もあの子のことは気がかりでね…」
「あの…、どうして貴方みたいな人が、そこまで?」
ただの男娼と客の関係と言うには、あまりにも智に対して肩入れし過ぎている気がする。