第4章 Asymmetrical…
楽屋から降りた俺達を、翔はステージ脇の薄暗い通路の壁に背中を預け出迎えた。
「行ってこい」
いつもと変わらない、俺をステージへと送り出す言葉。
でも心做しか笑いを含んでいるせいか、いつもと違って聞こえる。
「なあ…、俺、変じゃない?」
俺自身がこの出立ちに戸惑っているんだ、もしかしたら翔だって…
「全然? 寧ろ可愛すぎて、今すぐにでも食っちまいたい気分だ」
そう言って、同じくショッキングピンクでフワフワした裾の下、Tバックの上から俺の中心を撫で上げた。
ニノが見てるのに…
「ばか…、食いたきゃ後でいくらでも食わせてやるって…」
「くく、じゃ楽しみは後に残しておくとするか」
「ああ、そうしろ。それより、キス…してくれよ…」
俺は翔の肩に両腕をかけ、濃いアイメイクで飾られた瞼を閉じた。
高いヒールを履いてるせいか、翔と俺との間に身長差は殆どない。
なのに顎を持ち上げ、噛み付くようなキスをしてくる翔。
これじゃ明日腰が立つか心配だな…(笑)
「もう、二人ともいい加減にしてくれないかなぁ? ここに寂しい独り身がいるってこと、忘れてんじゃないよ…」
深いキスに腰が砕ける寸前のところを、ニノの毒を含んだ苦情が引き止める。
「ほら、いい加減にしろってさ…。こんなトコでマジでガッツいてんじゃねぇよ(笑)」
俺は翔の胸を押し、腕の中から摺り抜けると、親指の腹で翔の唇に付いたピンクを乱暴に拭き取った。
翔には悪いが、正直助かった。
このまま続けられたら、俺の方がその気になっちまう…
「くくく、悪かったな、ニノ。よし、じゃあ行ってこい!」
意味あり気な笑みを浮かべ、翔が俺とニノの背中を押す。
「いくよ?」
「お、おう…」
俺達は互いに顔を見合わせると、両手をしっかり繋いでスポットライトの下へと躍り出た。