第4章 Asymmetrical…
「だーめ! 智踊りたいんでしょ? だったら俺の言うこと聞いて? ね?」
俺の手からメイク落としを取り上げ、背中から包み込むように抱きしめられた。
「俺達の仕事ってさ、大勢…ではないけど、客の前で裸見せてさ、とてもじゃないけど人様に威張って言える仕事ではないけど、でもダンサーであることに違いは無いわけじゃん? だったらさ、見てくれなんて気にする必要なくない?」
確かにニノの言う通りだと思う。
所詮ストリッパー…、それは紛れもない事実。
でも…それでも俺はダンサーであり続けたい。
いや、そうあり続けなきゃいけないんだ…俺が殺したアイツのためにも…
それが例え、オナニー目的のイカれたエロ野郎達の前であろうとも…
「分かったよ…、分かったから、手ぇ離せ」
俺は肩に回ったニノの華奢な腕を払い落とし、再び姿見に向かうと、鏡越しにニノを睨み付けた。
大体、俺とそう大して背丈も変わんねぇくせに…なんなら、ニノの方が俺なんかよりよっぽど華奢なくせに、そんなニノの腕に包まれるなんて心臓バクバクさせてるなんて…ありえねぇし…
「くく、智はやっぱそうでなくちゃ」
「うっせーわ…」
クスクスと肩を揺らすニノを他所に、俺は鞄から取り出した写真立てをいつものように鏡の前に置くと、
「行ってくるから…」
写真の中で俺に向かって笑いかける潤に言った。
普段と変わらない儀式をする俺を、ニノが複雑な顔で見守る。
分かってる…
いつまでも過去に縛られてる俺を、ニノが見ていたくないことなんて、いくら鈍感な俺にだって分かってる。
でもな…、やっぱ忘れるなんてこと出来ないんだよ、俺には。
「行こうか」
「あ、ああ…」
俺は半ばニノに引き摺られる格好で階段を降りた。