第25章 End of Sorrow…
どれくらいの時間そうしていたのか…
俺は一つの決意をしてスっと息を吸い込むと、いつの間にか俺の足元で身体を丸め眠ってしまった“チワワ”を抱き上げた。
「近藤さん、俺…明日出て行きます」
「えっ、翔さんどうして…。だってもしかしたら智が…」
その可能性が全くないとは思わない。
でも智がここに帰って来ることは、おそらくもうないだろう。
人に甘えることを嫌う智のことだ、一度ならず二度も裏切ってしまった相手を頼る、なんてことは考えられない。
アイツはそういう奴だ。
「勘違いすんな。俺は別に智を諦めたわけじゃねぇ。ただ…アイツがもし戻って来るとしたら、ここじゃねぇんじゃねぇか、ってな…」
どれだけ智が拒んだとしても、智が最後に選ぶのは、誰の物でもない…俺のこの手だ。
「だから俺は待つことにするよ、マンションで…智が帰って来るのを…」
智と暮らすために借り、智と使うために選んだ家具が揃った、あの部屋で…
そう…、それが俺が出した答えだ。
それが正解どうかなんて分からない。
ただ一つハッキリ分かったのは、どれだけ酷い言葉を投げ付けられようと、例え客のように扱われようと…
どれだけ智が俺から遠ざかろうとしたとしても…
俺は智を諦めることは出来ないし、智を愛する気持ちには嘘は付けない。
「それにアイツ…俺のコート持ってたんだぜ?」
手切れ金の代わりなんかじゃない…
勝手な考えかもしれないけど、あれは“いつか返しに来るから”って…、智なりの俺へのメッセージなんじゃねぇか、って…
「君が決めたことに俺が口を出すことでもないが、それで本当にいいのか? もしかしたら…」
そこまで言って近藤は言葉を飲み込み、それまで組んでいた足を解いた。
もしかしたら…
その先の言葉は聞かなくても、大体のことは想像出来る。
でも今は…今だけは、たとえばそれが現実だったとしても、考えたくもないし、想像だってしたくない。
今は、いつかこの手の中に智が戻ってくることだけを…ただそれだけを信じ、そして願いたい。
どれだけ時間がかかったって構わねぇ…、俺だけは…
それが俺の愛し方だから…