第25章 End of Sorrow…
「追いかけなくていいのか? 今ならまだ間に合うぞ?」
それまで沈黙を貫いていた近藤が口を開く。
その声は一見すれば穏やかにも聞こえるが、その反面、俺に選択を迫るような強さも込められていて…
近藤が暗に“追いかけろ”と、俺に迫っているようにも受け取れた。
でも俺は、一瞬展を仰いでからそっと瞼を伏せ、静かに首を横に振った。
追いかけたい…
今なら…
近藤の言う通り、今ならまだ間に合うかもしれない。
でもその後は…?
仮に智を連れ戻したとして、それからどうする?
男娼に身を堕とし、挙句薬に溺れた自分を、智がこの先赦すことは、恐らくはないだろう。
底の知れない後悔に苛まれ、罪の意識に押し潰されながら、苦しみ藻掻くに決まってる。
俺はそんな智を見たくはない。
もう二度と同じ思いをするのはゴメンだ。
「もういいんです。もう終わったんです。だから…もう…」
「本当にこれでいいのか? これを逃したら、もう二度と会えないかもしれないんだぞ? それでも?」
もう二度と智に会えない…
近藤のその一言が、俺の胸にズンと突き刺さった。
「そっか…、そうですよね…」
「翔…さん…?」
自分の中で見切りを付けたつもりだった。
なのにどうして…
「なんだ…こんなことになんなら、写真の一枚でも撮っときゃ良かった…」
そうすれば、例え肉体が離れたとしても、俺の心の中で智は存在し続ける。
そう…、智が潤の写真を肌身離さず持っていたように…
「馬鹿だな…、俺は…。そんな簡単なことも気づかないなんてな…」
熱い物が込み上げ、俺は思わず両手で顔を覆った。
「本気で馬鹿だ…」
「だったら追いかけなよ…。今ならまだ…、ね?」
ニノが、男にしては柔らかな手で俺の背中を摩る。
その指から、その手のひらから、ニノの苦悩が伝わってくる。
苦しいのは俺だけじゃないんだ、って…
親友が出て行くのを、黙って見送ることしか出来なかったんだから、ニノが自責の念にかられるのも当然のことなのかもしれない。
そしてその根源を作ったのは、他でもない、この俺だ。
あの時、智がどんな思いで最後のステージに立ったのか…、気付いてやれていれば…
もしかしたらこんなことにはなっていなかったかもしれないのに…
悪いのは…俺だ。