第25章 End of Sorrow…
「翔さん…」
シャワーを終え、バスローブを纏って階下に降りた俺に、ニノが掴みかかってくる。
「智に何をしたの? ねぇ、翔さん…」
バスローブの襟を掴み、俺を乱暴に揺さぶるニノの顔は、今にも泣き出しそうな…、いや、もう泣いてんのか…、顔で…
俺はその手をそっと払い除けると、広いリビングの壁に沿うように設えられたソファーに足を組んで座った。
すぐに“チワワ”が俺の膝に飛び乗って来たが、散々匂いだけを嗅いでから、思った相手と違ったのか、俺が撫でる間もなく、プイッと顔を背け、静かに離れて行った。
こんな小さな動物ですら、俺を嘲笑うのか…
智一人、引き止められなかった俺を…
「智を抱いたよ…」
厳密には、俺“が“抱かれたようなもんだが…
「どういう…こと…?」
ニノの声が震える。
「言葉の通りだけど? だってアイツ身体売ってたんだろ? だったら別に俺がどう扱おうと関係なくね?」
そう…、俺はあくまで“客”として扱われただけ…
それだけのこと…、あのSEXはそれ以上でもそれ以下でもない。
欲を貪るだけの行為だった。
「そんな言い方…酷いよ…、智が可哀想…」
「酷い? 智が可哀想だって? 何がよ…。じゃあ俺は?
恋人だと思ってた奴に、まるで客のように扱われた俺は? 俺が何とも思わなかったとでも?」
「そ、それは…」
俺が智と過ごした時間は何だったのか…
智の俺に対する想いはそんなモンだったのか…
悔しくて…それこそ消えちまいたかった。
それでも欲情を抑えられなかった自分を、俺がどれ程情けなく思ったか…
「なあ、分かるか? 惚れた相手に、客として扱われる気持ちが…。どんだけ惨めなことか…お前に分かんのかよ…」
胸の奥に抑え込んだ感情が溢れ出すのを、止めることが出来なかった。
俺は目の前で蹲ってしまったニノの胸倉を掴むと、それでもまだ信じられないと…、信じたくないと揺れる瞳を見下ろした。
「で、でも智は…智は翔さんのこと…ずっと想ってたし、今だって…」
分かってる…
今更ニノに言われるまでもなく、分かってるさ…
分かってるからこそ、辛くて、苦しくて…
胸が張り裂けそうに痛むんだ。