第25章 End of Sorrow…
酷く無情な時間だった。
性欲を満たすでもなく、かと言って互いの愛情を確かめ合うでもなく、ただ身体と身体を繋げるだけのセックスに、何の意味があるのだろうか…
殺してくれと静かに涙を流した智…
俺の上に馬乗りなって、まるで娼婦の如く振る舞う姿を、きっと俺には…俺だけには見られたくなかっただろうに…
なあ、智…
今何を考えてる?
その全ての感情を隠す仮面の下で、お前は何を思っている?
本当にこれで終わりでいいのか?
これで終わりにしていいのか?
俺は…
こんなとこでお前を終わらせたくねぇ…
ほぼ同時に絶頂を迎え、息を荒くして俺の胸に倒れ込んで来た智を、俺は両手できつく抱き締めた。
そして聞こえる筈のない右耳に口を寄せると、
「お前が死ぬのは俺の腕の中じゃねぇ…、ステージの上だ」
掠れた声で囁いた。
俺の声が届くなんて端から思っちゃいない。
でもどうしても伝えたかった…いや、伝えなきゃいけないと思った。
例えばそこが寂れたストリップ劇場のちっぽけなステージだったとしても…
一瞬でもそこでダンサーとして生きたのなら…、最後までダンサーとして、その命が尽きるまでダンサーとして生きて欲しい。
自分が類稀なダンサーであったことを、智に思い出して欲しかった。
俺の声が届いたのか届かなかったのか…、智はゆっくり身体を起こすと、フワリと笑って
「ごめんな、翔…」
そう一言ポツリ呟き、俺の腕の中から抜け出ると、乱れた身形を整えるでもなく、覚束無い足取りで部屋を出て行った。
ただ一つ…
俺のコートだけを持って…
「…っだよっそれ…。そんなモンで手打ちのつもりかよ…」
俺達の関係は、そんな安物のコート一枚で終わる関係だったってことかよ…
「っざけんな…、それこの間買ったばっかなんだぞ…? 俺、明日から何着りゃいいんだよ…」
悔しくて…
惚れた相手一人も引き止めることが出来ない自分が情けなくて、もう涙一粒すらも出て来なかった。
ただ底の知れない空虚感だけが、全身を支配していて…
俺は部屋に備え付けのシャワールームに入ると、熱いシャワーを頭から浴び、身体に残った智の痕跡を洗い流した。
俺が抱いたのは、智の姿をした幻だったのだと…
そうでも思わなければ、俺自身がぶっ壊れてしまいそうだったから…