第25章 End of Sorrow…
俺の涙をその頬に受け止めながら、智は何を思っていたのか…
月明かりの下で、俺は閉じていた瞼が開かれるのを、じっと見下ろし、待った。
そして、薄らと影を落とす睫毛がピクリと揺れ、ゆっくりと瞼が開かれた時、俺はゾクリ…と背中が震えるのを感じた。
俺を見上げる両の目に、それまでステージで幾度も見せてきた、欲情を煽る顔とは違う、妖艶な…、そうまるで娼婦のように欲の色を濃く乗せ、俺を誘う智がそこにいた。
その瞬間、智の俺に対する拒絶を感じると同時に、失望感に身体を震わせた。
お前はそうまでして俺を…?
もし仮に俺のことを思ってそうしたのであったら…、それほど残酷で、悲しいことはない。
それなのに、更に追い打ちをかけるかのように、
「手、放して? じゃないと服脱げないよ」
そう言って智は、赤く熟れた舌先で自身の唇をなぞった。
無性に腹が立って仕方なかった。
出来ることなら殴り倒してでも、俺はお前が相手にしてきた数多の客とは違う、と怒鳴り付けてやりたかった。
でもそれも出来ないくらい、俺は智に対して嫌悪感を抱かずにはいられなかった。
俺を客のように扱う智が、悍ましいとさえ思ってしまったんだ。
指の先ですら、触れていたくなくて…
俺はとうとう智の戒めを解いた。
本当は離しちゃいけなかっのに…
ずっとこのまま俺の手で縛り付け、一生俺の腕の中から逃げ出せないよう、捕らえておくべきだったのに…
分かっていながら俺は、欲情を煽るように艶めかしくシャツのボタンを外して行く智を、ただただ黙って見下ろすことしか出来なかった。
それでも首筋に唇を寄せられた時には、流石にその余りにも近過ぎる距離感に、
「やめ…ろ…」
と、声を振り絞った。
知られたくなかったんだ…
こんな状況で…、触れることすら悍ましいと思っている智相手に、欲情している自分を、智には知られたくなかった。
「望んだのは翔だよ?」
そう…、確かにこの状況に持ち込んだのは、他でもない俺自身。
少々強引でも、身体さえ繋げてしまえば、智を引き止めることが出来る…
そもそもそれが…、その考えこそが間違いだったんだ。
身体を繋げようが繋げまいが、智が俺から離れて行くことは、最初から決まっていたのに…