第25章 End of Sorrow…
本当は、絶望の淵にいるであろう智の肩をそっと抱き寄せ、優しくキスして、それから…
なのに俺は更に智を傷付けようとしている。
自分でも矛盾していることは分かってる。
でももう止められなかった。
「殺せ…って言ったよな? だったら俺が殺してやる。俺のこの手でな…」
誰の手にも触れさせやしない。
まして智自身のその手で…なんてこと、絶対に許さない。
だったらいっそのこと俺のこの手で…
瞬間、ゴクリ…と、智が息をのむ音が聞こえた。
ベッドに押さえ付けた手が、キュッとシーツを掴むのが分かった。
それでも一度芽生えた衝動を抑えるのは容易じゃなくて…
「でもただじゃ殺してやれねぇ。高級男娼の味とやらを楽しませて貰うくらいの権利はある筈だぜ?」
心とは裏腹の言葉を吐き出す。
そうだ、どうせここで終わるなら…
これで最期なら…
例え心が通じ合わなくたっていい、身体を重ねるだけで…、身体の一部が繋がりさえすれば、それだけでいい…
…って、愛のないセックスなんて、一方的に性欲を満たすだけのレイプと同じじゃねぇか…
でもそれでも俺は、一瞬でもいい…、智の体温を、智の全てを感じたかった。
大切なのに…
今まで出会った誰よりも、大切にしたいのに…
様々な思いが入り乱れ、感情のコントロールが出来ない俺を見上げ、智がフッと息を吐き出し、睫毛を微かに震える瞼を閉じた。
「分かった…、好きにしろよ…」
諦め…なんだろうか…
智の口から吐き出された言葉にも、月明かりに照らされたその顔からも、何一つ感情を読み取ることは出来ず…
力任せに組み敷いた筈の俺の手が、悔しさなのかなんなのか…プルプルと震え、それまで堪えて来た全ての感情が涙となって、智の頬へ零れ落ちた。
「…んでだよ…なんで…」
どうしてそこまで自分を追い詰める…
どうしてそこまでお前は…
一度堰を切った涙はやがて嗚咽に変わり…
心底惚れた相手に涙を見せるなんざ、男としてみっともないと分かっていながらも、俺はその涙を拭うことすら出来なかった。
自分の無力さが悔しくて…
哀しくて…
胸が張り裂けそうに、苦しかった。