第25章 End of Sorrow…
その場にいる誰もが、声を発することさえ躊躇い、静かに涙を流す智から視線を逸らした。
見て…いられなかったんだと思う。
智の叫びは、あまりにも痛々しく、それぞれ形は違ったとしても、同じように智を愛している俺達にとっては、悲し過ぎる叫びだったから…
「分かった…」
「翔…さん?」
一瞬、俺の前に立ちはだかる素振りを見せたニノを押し退け、俺は智の細い手首を掴んだ。
「ね、翔さん…、駄目だよ…、止めて…?」
智の手を引き、二階へと繋がる階段を昇ろうとする俺の前を、ニノが両手を広げて阻もうとする。
その顔は涙に濡れていて…
なのに広げた両手は力強くて…
親友を思うニノの気持ちを考えれば、目の前に伸びる階段を昇ることすら躊躇われた。
でも俺は、
「邪魔だ、どけ…」
渾身の力を込めて伸ばした腕を払い、智の身体を引き摺るようにして階段を昇った。
ごめんな…、二ノ…
背後で啜り泣くニノに、心の中で詫びた。
間違ってるかもしれない…
でも俺にはこんな方法しか…、こんなやり方でしか、智を深い闇の底から救い出すことは出来ねぇんだよ…
俺は寝室のドアを開け放つと、キンと冷えた空気の部屋に、意識を朦朧とさせる智を引き込み、冷たいシーツの上にその身体を叩き付けるように押し倒し、その上に馬乗りに跨った。
「なんのつもりだ…」
怯えているんだろうか…
「なんのつもりか、って? 決まってんだろ、お前を抱くんだよ。ほら、さっさと脱げよ」
僅かに差し込む月明かりに照らされた智の目が…大きく揺れた。
「は、はあ? おまっ…、何考えて…」
それでも抵抗を試みようとする智は、細い腰を捩り、俺の下から抜け出そうとする。
そんな力、今の智には残ってないのに…
必死で藻掻く姿からは、俺に対しての恐怖を感じていることが、容易に感じ取ることが出来た。
「しょ…翔…、こんなこと…」
ああ、そうだよ…
俺だってこんなことしたくねぇよ…
逃げ出したくても、それすらも出来ない智を相手に、細い手首を圧倒的な力で押さえ付け、無理矢理身体の動きを封じるなんて真似…、俺だってしたくない。
智の涙を、これ以上見たくはない…