第25章 End of Sorrow…
その曲がPCから流れた瞬間、それまでニノの膝を枕に、“チワワ”と戯れていた智の顔から全ての色が消えた。
わなわなと震える手からは“チワワ”が滑り落ち、床に落ちた“チワワ”は、キャンと呻きを上げた。
「智…? ねぇ、智? 翔さん、止めて…早く、その曲止めて!」
真っ先に智の異変に気付いたニノが叫びを上げ、痙攣したように身体を震わせる智の肩を揺すった。
勿論、俺だって何の対処もしなかったわけじゃない。
ただ、こんな時に限って冷静な判断ってのが出来ないもんて…
ニノの慌てた様子にまずいと思った俺は、無意味にキーボードを叩いた。
止まれ…、止まってくれ…
そう願いながら…
そうして漸く曲が止んだ頃には、もう時すでに遅しといった状況で…
泣き叫ぶでもなく、静かに涙を零した智は、次第に荒くなる呼吸に、今にも意識を朦朧とさせようとしていて…
「智…、やだ…、智…ねぇってば…」
その光景に、ただただ狼狽えるニノと、困惑の表情を浮かべる近藤と、そして呆然とする俺…、その場にいる全員が、突如として起こった異変に、どうすることも出来ずにいた。
そりゃそうだよな、まさかあの曲が…
智が最後に踊ったあの曲が、記憶の扉を開く鍵になるなんて、誰も思っていなかったんだから…
この俺だって…
こんなことになるなら、近藤の申し出を受けておけば良かった…と、その時になって後悔した。
その場に立っていることもままならない智を、ニノと近藤が抱きとめ、大丈夫だから…と繰り返しながら、智の背中を摩る。
その光景を目の当たりにしても尚、その場から一歩も動けず、ただ自責の念に駆られる俺を、智はどんな思いて見ていたんだろうか…
智の口から、
「殺して…」
と零れた瞬間、それまで温厚な顔しか見せて来なかった近藤が、険しい表情を浮かべ、智の頬を平手で叩いた。
それでも智は、痩せ細った身体のどこにそんな力が残っていたのか、二人を振り切った。
そして怒りにも似た感情を露にした近藤を前に、
「殺せよ! 頼むから…殺して…」
それはまるで、自分の存在をも否定するような…悲痛な叫びにも聞こえて…
俺は胸が締め付けられるような痛みを感じた。