第24章 A piece…
でもそれは、俺の思い違いで…
薬物依存の恐怖は、そう簡単に払拭出来るものじゃなくて…
思い通りにならない時、自分の思いが伝わらない時…、勿論そればかりじゃないけど、つい薬に縋りたくなる瞬間は何度もあった。
その度に俺は、視界に入る物全てを“近藤”や“ニノ”に投げつけ、どうにもならない苛立ちをぶつけた挙句、手足をばたつかせ泣き喚いた。
そんな発狂寸前の俺を、二人は全身で受け止め、俺が再び落ち着きを取り戻すまで見守ってくれた。
もし二人がいなかったら…、そう考えるだけで怖かった。
“近藤”に抱かれていたのも、“近藤”という男を繋ぎ止めるため。
“ニノ”の存在は勿論だけど、“近藤”の加護がなければ、俺は生きていられないって分かっていたから。
それがあの“赤い光”を持った男を苦しめていたなんて、思いもしないで…
そんなある日、二人が揃って家を空けることになった。
広い家に残されたのは、あの男と俺、そして犬が1匹だけ。
正直、戸惑った。
二人きりになることが怖かったわけじゃない…、どうやってその時間を過ごしたらいいのか分からなかった。
でもそう思っていたのは俺だけじゃなかったみたいで…
男は所在なさげに部屋を彷徨いてから、畳の上に寝そべる俺の隣に寝転がり、俺の描いている絵を覗き込み、
「楽しいか?」と言った。
絵を描くのは嫌いじゃない。
多分…だけど、昔はもっと上手く描けていたのかも知れない。
でも今の俺は…、自分の気持ちを落ち着かせるため、そして“赤い光”の正体を確かめるためだけに、赤いクレヨンを手にし、真っ白な画用紙を赤く染めている。
だから、“楽しいか”と聞かれても、どう答えていいのか分からず、でもこの男に笑って欲しくて、俺は“うん”と頷いて見せた。
そして思い出したように身体を起こすと、“ニノ”が画材なんかを仕舞っている棚を開け、そこから使っていないクレヨンの箱を取り出した。
俺は蓋を開け、男に向かって青いクレヨンと、真っ白な画用紙を差し出した。
男はクレヨンを受け取ると、
「俺に絵を描けって…?」
と、一瞬困ったような顔をした。