第23章 Moving on…
そんな中、俺と智が二人きりで過ごす時間が訪れた。
二人は偶然を装ったが、明らかに俺を想っての企みだということは、直ぐに分かった。
何せ、近藤は別として、ニノが買い物に出かけたい、なんて言う筈がないから…
さて、どうしたもんか…
ニノは一時間程で帰ると言っていたが、正直その一時間を、智と二人きりでどう過ごしたらいいのか、さっぱり分からない。
俺は、畳に寝そべり、画用紙に向かって落書きを始めた智の横に寝転がり、頬杖を着いた格好で、その光景を眺めていた。
ここに来てから気が付いたことだけど、智は絵を描いている時だけは、とても楽しそうな顔をする。
一緒に暮らしていた頃は、絵を描いてる姿なんて、一度も見たことなかったのに…、元々絵を描くことが好きだったんだろうな…
「楽しいか?」
問いかけた俺に、智は“うん”と頷く。
少しづつ…ではあるけど、俺の言葉に反応してくれるようになったことが嬉しい。
すると智は、何かを思い出したように身体を起こし、部屋の隅に置かれた棚から、クレヨンの箱を取り出した。
智の手の中のクレヨンは、まだ新しい物なのにどうして…
そんなことを思っていると、智が徐ろに箱の中から一本のクレヨンを取り出し、俺に差し出した。
「これを…俺に?」
受け取ったクレヨンは、真新しい青いクレヨンで…
それが智の好きな色だと気付いた瞬間、俺達の間で何かが動き始めたような気がした。
そして、続けて俺の前に差し出される真新しい画用紙…
まさかとは思うけど…
「俺に絵を描けって…?」
自慢じゃないが、俺は絵を描くのは昔っから苦手で、学生時代も、校内で開かれる作品展で笑いをかっさらったことも度々だ。
だから出来ることなら絵なんて描きたくないし、描いたところで笑われるのが関の山…
でも智は一歩も引くことなく、俺に画用紙を差し出してくるから仕方ない。
「分かったよ、描きゃいいんだろ? そのかわり、絶対笑うなよ? いいな?」
なんて…
俺の言葉なんてもう耳に入ってねぇか…
智は再び画用紙に向かうと、無心で何かを描き始めた。
ニノ曰く、俺の“顔”らしいが…