第23章 Moving on…
つか、何描きゃいいんだ…?
絵なんて、久しく描いたことの無い俺は、真っ白な画用紙を前に、一人頭を抱えた。
その時、リビングのソファーの上で、近藤が飼っている犬が、“クン”と鼻を鳴らすのが聞こえて…
丁度いい、あの犬でも描いてみっか…
俺は青いクレヨンを手に、画用紙に向かって“近藤の犬”を描き始めた。
…が、元々絵心なんてモンは持ち合わせていない俺は、何をどうしても上手く描けなくて…
でも、どうにかこうにか絵を仕上げると、それを智の前に差し出した。
どうせ笑われるんだろうな…
“笑うな”と言ったところで、出来上がった絵の完成度を見れば、笑われるのも当然…ではないが、仕方ないとは思っていた。
でも違ったんだ。
智は俺の絵を見るなり、一瞬は首を傾げはしたものの、直ぐにピンと来たのか、
「チワ…ワ…?」
今にも消え入りそうな声で呟いた。
「分かる…のか?」
こんな、幼稚園レベルの下手くそな絵なのに、智は一発でそれがチワワだと言い当てた。
通じてる…
俺と智の心は、まだ完全に絶たれたわけじゃない。
細くて、触れたら切れてしまいそうに脆い糸かもしれないけど、まだ繋がっている。
「つ、次は何描いて欲しい?」
聞いたところで答えなんて返って来ないし、なんなら絵なんて描きたくもない。
でも智が喜んでくれるなら…
俺の下手くそな絵で、智が笑ってくれるなら…
何枚でも…、いや、何十枚でも、何百枚でも描いてやる。
俺は白い画用紙に、思いつく限りの絵を書き殴った。
一枚描いては智に見せ、また一枚描いては智に…
そんなことを繰り返しているうちに、気付けば俺の描いた絵は、智の描いた“俺の顔”らしき絵の枚数を遥かに超えていて…
智は俺の描いた絵を一枚一枚手に取っては、何が描かれているのかを、驚く程の正解率で言い当てていった。
本人の俺ですら首を傾げたくなるような絵だって、一枚や二枚じゃなかったのに…
俺は思わず智を抱き締めた。
あまり驚かせないように、という今度の忠告は分かっていた。
でもそうせずにはいられなかった。
俺はやっぱり今でも…、いやこれまで以上に智を愛してる。
そのことを、痛い程…、胸が苦しくなる程、強く実感させられた時間だった。