第23章 Moving on…
「冗談…でしょ?」
聞き返した俺に、近藤は“本気だ”と言わんばかりに足を組み換え、腕を組んだ。
「勿論、ずっとというわけじゃない。智が君を本当に必要だと思うようになるまでの間、だがね」
智が俺を必要とするまで、か…
その日がいつ来るのかは分かんねぇけど、もしかしたら、考えたくはないけど、そんな日は永遠に来ないかもしれない。
でも希望だけは捨てたくない。
「俺、決めたんです。智のためなら何でもするって…」
智を…、智の全てをこの手に取り戻すためなら、俺は自分が犠牲になることだって厭わない。
もし智の記憶に俺が存在しないのではあれば、また最初っから始めりゃいい。
あの頃のように…
「じゃあ翔さん…」
「ああ、お前にも世話かけるかも知んねぇけど、頼むわ」
「ううん、俺嬉しいよ。翔さんが今も変わらず智のことを想っていてくれて…」
当たり前だ、バカ…、本当は毒付いてやろうかとも思った。
でもニノの涙を見てしまったら、その気すらすっかり失せた。
「じやあ決まりだな。仕事にはここから通えばいい。いつから…って言うのは愚問だな?」
「当然でしょ。なんなら今日にでも…、と言いたいところだけど、明日からにします」
劇場で心配している雅紀を安心させてやることが先決だ。
アイツには、何かと気苦労をかけちまったから…
「分かった、君の好きにすればいい。但し、一緒に暮らすとなると、見たくない姿も見ることになると思うが…、それでも…」
「分かってます。どんな智であろうと、受け入れる覚悟は出来てます」
「そうか、そうだな」
近藤は今度こそ納得したのか、空になったカップに、熱いコーヒーを継ぎ足した。
近藤の自宅を後にした俺は、その足で劇場に向かい、雅紀に智の現在の状態と、置かれている状況を洗いざらい伝えた。
雅紀は別段驚いた様子を見せることなく、
「良かった…」
と、小さく呟き、柔らかな笑みを浮かべた。
そして俺は、智がいなくなって以降、空き家状態になっていたマンションの掃除に取り掛かった。
智がいつ戻って来てもいいように…
智とまたここで…
そんなことを思いながら、出しても出しても減ることのないゴミとの格闘を、夜が明けるまで続けた。