第23章 Moving on…

｢それは…何とも言えないな…｣

近藤の放った言葉は、ほんの僅かな希望さえも打ち砕くようで…

俺は握り締めたカップを滑り落としてしまいそうになる。

｢翔さん…、顔色悪いけど、大丈夫？｣

余程酷い顔をしていたんだろうな…

ニノが俺の肩にそっと手を置く。

大丈夫だ、と胸を張って言えない言えない無力感と情けなさが、ニノの手が触れた肩からそこはかとなく広がって行くような気がして…

俺は和室でスヤスヤと寝息を立てる智を振り返った。

そう…だよな、ここで俺が迷っていたら、やっと掴みかけた大切なモンをまた逃がしちまうことになる。

指の隙間から砂が零れるような…、あの感覚だけは、もう二度と味わいたくねぇ。

｢何とも言えない、ってことは、可能性はゼロではない、ってことですよね？｣

そうだ、可能性が１%でもあるのならば…、その１%にかけてみたっていいじゃねぇか。

別に、多くは望まねぇし、以前のように…なんて思わねぇ、ただそこで…俺の隣にいてくれさえすれば、それだけでいい。

｢まあ、そういうことになるかな…｣

｢じゃあ智を引き取っても？｣

出来ることなら、今すぐにでも智を連れて帰りたい。

一緒に暮らすことで、智は再び自分を取り戻すことが出来るんじゃないか、って…

でも近藤は一言｢焦るな｣と言ったきり、無言でカップに残っていたコーヒーを飲み干した。

｢智を手元に置きたいという君の気持ちは分かる。だが、今の智の状態を考えると、いきなり環境を変えてしまうのは得策ではないような気がするんだ｣

確かに近藤の意見も一理ある。

智が薬物に溺れていた時期を知らない俺から見ても、今の状態はとても落ち着いているように見える。

でも、もし今この環境を変えてしまったら…

今よりももっと深く心を閉ざしてしまうかもしれない。

それだけは避けたい。

｢でもじゃあどうしたら…｣

｢そうだな…、こうしてはどうだろう…。君がここに暮らす、というのは｣

｢は、はあ？｣

何を言い出すかと思ったら…

近藤の、まさかの提案に、思わず驚きの声を上げた俺は、隣に座るニノと顔を見合わせた。