第23章 Moving on…
暫くの間智を抱いたままそうしていると、次第に感じ始めた肩の重みに、俺は肩口にある智の顔を覗き込んだ。
「翔さんの顔見てよっぽど安心したんだね、智。こんな穏やかな寝顔、久しぶりに見たかも」
智を起こさないように、だろうか…
ニノが小声で言って、畳の上に散らばった画用紙を掻き集め、一纏めにした。
「押し入れに来客用の布団が入っているから、それを使うといい」
リビングのテーブルに、人数分のお茶を用意した近藤も、心做しか安心したように見えるのは、俺の気のせいだろうか…
「翔さん、智を…」
近藤に言われて、押し入れから出した布団を敷いたニノが、俺から智を引き剥がそうと、智の肩に手をかける。
でも俺は、今自分の腕の中にある温もりを、どうしても手放したくなくて…
「いいよ、俺が…」
ニノに断りを入れてから、そっと智を布団の上に横たえた。
直ぐに身体を丸める寝姿は、今も…以前も何も変わっていない。
ただ一つ…
違っているのは、その手に握られているのが、俺の手ではなく、赤いクレヨンだ、ってことくらいか…
「こっちへ来てお茶でもどうだい? 智のことで、ゆっくり話もしたいし…」
「そう…ですね…」
本音を言えば、同じ空間にいたとしても、ただの1mmだって智から離れたくない。
でも、鼻を擽るような、コーヒーの香ばしい匂いの誘惑には勝てず…
「頂きます」
見るからに座り心地の良さそうなソファーに腰を下ろした。
「それで、あの…、智は…」
コーヒーを一口口に含み、俺は切り出した。
「それなんだがね、俺の知り合いに丁度精神科医がいてね…。彼の診断によれば、さっきも言った通り、薬に関してはほぼ離脱状態にあると言えるそうだ。ただ、心がね…壊れてしまっている、という言い方が正しいのかは、分からないが…」
近藤はそこまで言って、少し考え込む素振りをみせた。
そして、
「彼の話では、智は自ら心に蓋を被せてしまった…、ということらしい」
「心に…蓋を…?」
聞き返した俺に、近藤がコクリと頷く。
「で、でも治るんですよね?」
また以前のように…
俺が知っている智のように…