第22章 Not Believe…
一度は振り上げた拳を振り下ろすことも出来ず、その場に泣き崩れた俺を、近藤の腕が抱きとめる。
「君の気持ちは分かる。でも今彼を責めたところで、どうにもならないだろう?」
そんなこと…俺にだって分かってる。
でも、でも…っ…!
「松本君、だったかな…。これで分かっただろ? 君がどれだけ深くあの子を傷付けて来たのか…」
項垂れたまま、呪文のように“違う…”と繰り返すオーナーを、近藤の感情を抑えた声が諌めた。
「智だけじゃない、ニノ君だって、智の恋人だって…、皆苦しんでる。…この俺だってね?」
近藤の言う通りだ。
皆それぞれ形は違っても、自分なりの方法で智を愛している。
それは、今俺の目の前で頭を抱え、やり場のない感情に苦悩するこの男だって同じこと。
血も涙もない、冷酷無比に見えた男が、人目を憚ることなく涙を流すんだから…
「俺は…、ただ智に傍にいて欲しかった…。他の誰でもない、俺の隣で笑っていて欲しかった…、それだけだったのに…」
どこでどう間違ってしまったのか…
オーナーの、テーブルの上で握り締めた拳が震える。
そして何かを決意したように顔を上げると、
「俺は一体どうしたら…、どうすれば許して貰える? 近藤さん、アンタなら分かるだろ? 教えてくれ…」
近藤に向かって深く頭を下げた。
「何でもする…、智のためなら何でも…」
その姿は、それまで纏っていたプライドという硬い鎧なんてどこにもなくて…
痛々しい程純粋に一人の男を想う、ただの哀れな男の姿だった。
「何でもする、君はそう言ったね? ならば、もう智を自由にしてやらないか?」
「智を…自由に…?」
「そうだ。勿論、今の状態の智を一人にするのは危険だが…」
薬物依存の恐ろしさを言っているんだろう…、近藤は暫く深く考え込む素振りを見せた後、ある提案を口にした。
「どうだろうか、君が本気で智のことを思うのであれば、智を俺に預けてはくれないだろうか?」
「智…を…? アンタに…?」
「尤も、君も知っての通り、俺も智に四六時中付き添える程、暇じゃないから、ニノ君も一緒に、と言うことにはなるが…」
どうだろう…、と近藤がオーナーの肩に手を置いた。