第22章 Not Believe…
でも…
「どういう…ことだ…」
俺の淡い期待は、オーナーのその一言で脆くも崩れ去った。
「俺にはそんなこと一言も…」
信じられないとばかりに首を振るオーナーに、近藤の冷めた視線が向けられる。
「智は、自分の耳が聞こえなくなったことを、誰にも言ってはいないよ。ニノ君にも、俺にもね…」
「そん…な…」
オーナーが相当なショックを受けたのは、その様子からも見て取れた。
でも、俺がその事実を知った時のショックは、そんなもんじゃなかった。
繊細で、華麗で…、それでいて見る者全てを魅力する智のダンスは、細かな音の変化まで聞き分ける耳があったから…
それが一つでも奪われた…
そのことがどれだけ悲しくて、辛くて…、智の苦悩に気付いてやれなかった自分を、何度責めたことか…
ただ過去に拘り続け、叶う筈もない思いに執着した結果、愛し方を間違えたこの人には、智の苦しみなんて分かりっこないんだ。
なのに智は…
「アンタのせいだ…。智の耳が聞こえなくなったのも、薬物に溺れたのも…、全部アンタのせいだ…」
よさないか…、と近藤が俺の手を掴み諌める。
でも一度堰を切って溢れ出した感情は抑えることは出来なくて…
「どうして智を翔さんから引き離したりしたの? ねぇ、どうして? アンタが智の前に現れさえしなければ、智は翔さんの隣で笑っていられたのに…」
好きなダンスだって…
そりゃストリッパーなんて、褒められた仕事じゃないし、胸張って言えないかも知んないけど…、それでも踊っていられたのに…
どんなに小さなステージでもいい、踊っていられるなら、それだけで幸せだと…
誰が見てくれなくたっていい、たった一人のために踊る…、それこそが自分が生きる理由だと…
それ程ダンスを…
翔さんを愛してたのに…
それなのに…!
「アンタが全部奪ったんだ…。自分のエゴのために、智の耳も、ダンスも…、翔さんも…、全部アンタが…っ!」
俺は、今にも殴りかかる勢いでオーナーのジャケットの襟を掴んだ。
「許さない…。智を返してよ…、ねぇ…お願いだから…、智を返して…」
あの小さな寂れたステージでも、溢れんばかりの輝きを放っていた、あの頃の智を…返して…