第22章 Not Believe…
「これが何か…分かるか?」
近藤がオーナーの前に例の小袋を広げて見せた。
「これ…は?」
オーナーが小袋を手に取り、しげしげと見つめる。
「分からないかい?」
そう問われても、オーナーはそれが何なのか分からない様子で…
しきりに首を傾げるばかりだった。
「そう…か…、分からないなら仕方ないか…。でも、ならば聞くが、君は智とは旧知の仲だと聞いているが、今の智の変わり様を見てどう思う?」
「どう思う…って…、それは…。でも、それとこれと何の関係が…?」
「智がこうなったのが、これのせいだ、と言ったら…?」
一瞬…
本当に僅かな一瞬だけど、オーナーの彫りの深い端正な顔がピクリと歪んだ。
違う…
末端の俺の耳にも入るくらいだ。
財界にも顔の広いオーナーが、あの噂を知らない筈がない。
分からないんじゃなくて、分からないフリをしてるんだ。
その証拠に、袋を持つ手が酷く震えている。
きっと、目の前に突き出された現実を受け止められないんだ。
この人も、苦しい程、智のことを愛してるから…
その場にいる誰もが口を硬く閉ざしたまま、開こうとはせず、時間だけが無駄に過ぎて行く中で、ただ一人…智だけがコロコロと笑い声を立てている。
自分の置かれている状況が、全く理解出来ていないようだった。
このままじゃ駄目だ…
どれだけ時間を費やしたところで、このままでは何の解決にもならないと。
俺はテーブルの上の小袋を一つ手に取ると、虚ろに空を彷徨う智の目の前に差し出した。
「これ、智の…だよね? どこで手に入れたの?」
心神耗弱状態の中でも、俺の声は届いているのか、それまでの笑い声がピタリと止まった。
見開いた目の端から、大粒の涙がいくつも零れ落ちては、膝の上で硬く握った拳を濡らす。
その姿が、これまで見たことがないくらいに、痛々しくて…
「誰も智を責めたりしないから、教えて? どうしてこんなモノに手を出してしまったのか…。俺達友達でしょ?」
そうだ…
俺達は例えどんな状況に置かれようと、友達であることに変わりはない。
だからこそ、俺には…
俺だけには、全てを打ち明けて欲しいと…、そう願わずにはいられなかった。