第22章 Not Believe…
約束した通り、近藤に指名を受けた智が部屋を出て行くのを見送り、俺はすぐ様行動を起こした。
狭い部屋の、ありとあらゆる扉を開け、カーペットもベッドにかけられた布団も捲り…、クローゼットにかけられた智の服のポケットも全部ひっくり返した。
そこまで入念に探したにも関わらず、俺が探しているモノは見つかることはなかった。
やっぱりあの噂はデマだったんだ…
智は薬になんて手を出していない。
良かった…
そう安心したと同時に、今度は別の不安が湧き上がって来る。
薬じゃないとしたら、他に考えられるのは病気しかないけど、それにしたって、あの異常なまでの痩せ方といい、時折見せる、常軌を逸した言動の数々といい、“病気”の一言で片付けられることは、到底出切っこない。
俺は雑然とした部屋で一人首を捻った。
その時不意に、智がここへ来る時に、唯一持って来たボストンバッグが視界に入った。
そう言えば…
癖、なのかな…、智は大切な物や、失くして困るような物は、いつもボストンバッグに仕舞っていた。
流石に個人の私物を探るのは偲びないけど、そんなことを考えてる暇は…ないか…
俺はボストンバッグをクローゼットから引き摺り出すと、ゴクリと一つ息を飲んでから、ゆっくりとチャックを開けた。
そこに例のモノがないことを祈りながら…
でも、そんな俺の願いとは裏腹に、ボストンバッグを開いた瞬間俺の目に飛び込んで来たのは、幾つかのビニールの小さな袋に小分けにされた白い粉で…
その内の幾つかは、ほぼ空の状態になっていて…
「嘘…、嘘だよ…、何かの間違いだよ…、だってこんなの…、こんなことって…」
今まで重ねて来た智との時間が、記憶が、想い出が、ガラガラと音を立て、俺の手の中から零れ落ちて行くような感覚に、目の前が真っ暗になり、その場に立っていることも出来なかった。
「翔さん…、俺、どうしたらいいの…?」
涙ばかりがとめどなく溢れて、仕方がなかった。
それでも、
「智の目に触れさせるな」
電話口で言われた近藤の言葉に突き動かされるように、俺はボストンバッグの中に散らばった小袋を掻き集め、一つに纏めた。