第22章 Not Believe…
ただ悔しくて…、悲しくて…
自分の不甲斐なさに涙が溢れた。
さっきの客が言ったことは、おそらく事実だろう。
上島が違法薬物絡みで警察にマークされてることも、そして上島を客に持つ智が、上島の毒牙にかかっていることも全て、どこかで予想していたことだ。
俺だけじゃない。
智を気に入って、息子のように可愛がる近藤もだって勘づいていたことなのに…
なのに俺は…
一緒にいたのに…
誰よりも智の近くにいて、智の異変にだって、真っ先に気付けた筈なのに…
いや、違うな…
気付いていたのに、目を逸らし続けていたんだ、俺は。
近藤から、智に感じている違和感を打ち明けられた時、あの時から、遅かれ早かれこうなることは目に見えていた。
なのに俺は、
気のせいだ、って…
俺の思い過ごしだ、って…
言い訳ばかりを積み重ねて、智から逃げていたんだ。
でも、疑惑が確信に変わった以上、もう智から目を逸らすことも、そして逃げることも、俺には出来ない。
どうしたらいい…?
俺に何が出来る?
この制限された状況の中で、俺に出来ることは限られていて、だけど手を子招いてる時間もない。
どうする…?
俺は何をすればいい…?
熱いシャワーで、客の残していった残骸と、頬を濡らした涙を一緒に洗い流した。
そして仕事の終了を告げるため、宏太に電話を入れた。
「悪いけど、部屋来てくれない?」
「いいですけど…、何か…」
仕事を終えた後、俺が部屋に宏太を呼ぶことは滅多にないから、宏太が戸惑うのも無理はない。
「車じゃちょっと出来ない話でさ…」
どこに監視の目と耳があるか分からない中では、おちおち話も出来ない。
だったら、行為の痕跡が色濃く残るこの部屋の方が、よっぽど安心で安全だ。
程なくして、部屋のチャイムが鳴り、俺はチャイムを鳴らしたのが宏太だということを確認してから、漸くそのドアを開けた。
「悪いけどさ、近藤さんに連絡取ってくれない?」
「近藤…さん、ですか? いいですけど、どうしてまた…?」
「理由は後だ。兎に角、近藤さんと話したいことがあるんだよ…」
「分かり…ました」
宏太は訝しみながらも、自分のスマホから近藤に電話をかけた。