第22章 Not Believe…
俺がその噂を聞いたのは、たまたま調子の悪かった智に代わって、指定されたホテルの一室を訪れた時だった。
客は俺を見るなり、一瞬は肩を落とす素振りを見せたけど、一度肌を合わせてしまえば、結局は相手が智であろうがなかろうが関係なくて…
散々俺の上で腰を振った後、ベッドで横たわる俺に向かって、財布から抜き取った札束を差し出した。
「君も悪くなかったよ」ってね…。
客は、当然だけど俺と智とを比べた。
勿論、この客だけじゃなくて、他の客もだけど…
でも俺は比べられることは別に苦でもなかったし、寧ろこれで智の負担が減るなら、それでもいいと思っていた。
ここ数日…、いや、数週間の智は、俺の目から見ても異常なくらいに痩せてたし、顔色だって良くはない。
それに、穏やかに笑っていても、いつも目の奥をギラギラと光らせていて…
正直、そんな智を怖いと思う瞬間が何度かあった。
実際、それまで静かに絵を描いていたかと思うと、突然狂ったように笑い出したり、時には泣き叫ぶことだってあった。
でもそれもほんの一瞬のことで、暫くすると、まるでバッテリーが切れたかのように、パタリと動かなくなって、何日も眠り続けた。
そう…、狂ってたんだ、智は…
そのことに俺は気付いていたのに、ずっと目を背け続け…
「そう言えば噂なんだが、智の客に“上島”ってのがいたろう? あの男は気をつけた方がいいぞ? どうも薬絡みで警察に目を付けられてる、って話だからね…」
そう言われた瞬間、俺の頭の中で何かがガラガラと音を立てて崩れて行くような気がした。
「薬…って…?」
声が震える。
「決まってるだろ、違法薬物だよ。だから君も、今のオーナーとは早めに手を切った方が良いんじゃないかい? ショーパブの経営の裏側で、売春の斡旋なんてしてるとバレたら…、しかも薬物が絡んでる斗なったら…、それこそ摘発の対象になりかねないからね」
オーダーメイドだろうか…、仕立ての良いスーツを身に纏い、高級ブランドのネクタイと、宝石が散りばめられた腕時計を嵌めた客は、
「もう会うことはないだろうけど、智に宜しく…」
と、それだけ言い残し、部屋を出て行った。