第21章 Fade away…
全身から力が抜けて行くような…
途轍もない脱力感と倦怠感に襲われた俺は、ガタガタと震える手を握り締め、エレベーターに乗り込むと同時に蹲った。
「何だ…、これ…」
身体はこんなに冷えて震えてるのに、全身の毛穴という毛穴から汗が噴き出すような…、得体の知れない恐怖が俺を支配した。
「怖ぇ…よ…、翔…」
どうしてだか、こんな時に救いを求めるのは、いつも翔しかいなくて…
断ち切らなきゃいけないって…
忘れなきゃって…
そう思っているのに、それでも怖くて怖くて…
俺は翔の名を呪文のように呼び続けた。
そして早くこの恐怖から逃れたい一心でポケットの中から財布を取り出した。
小分けにした小さな袋に残った僅かな粉を指で拭き取り、その指を口の中に入れた。
少量のせいなのか、それとも味覚が麻痺しているのか、味はしない。
微かな苦みを感じるだけ。
徐々に冴え渡って行く感覚の中で、俺は乱れた息を整えるように、深い呼吸を何度も繰り返した。
それでもグニャリと歪んだ視界と、聞こえない筈の右耳の奥で鳴り続ける耳鳴りだけはどうすることも出来ず…
エレベーターが目的の階に着き、扉が自動で開いても、身体が思うように動かせず…
やっとの思いで立ち上がった俺は、壁に手を着き、ふらつく足でエレベーターを降りた。
「クッソ…、っだよこれ…」
まるで足が鉛にでもなったような…、重い足を引き摺り、部屋の前まで歩く。
でも、翌々考えたら、光がいなければ部屋に入ることも叶わないことに、その時になって漸く気付く。
仮に、中にニノがいたとしても、内側からロックを外すことは出来ない。
「はっ…、情けねぇの…」
俺は自嘲気味に笑うと、背中壁に預け、そのままズルズルと崩れるようにその場にへたり込んだ。
財布と一緒に入れたスマホを取り出し、履歴から光の番号をタップした。
「あ…、俺…。悪ぃ…鍵、開けて欲しいんだけど…」
数コールも待たずに電話に出た光は、俺の帰りを待っていたのか、「すぐ行きます」とだけ答えて電話を切った。
再びポケットにスマホを捩じ込み、時折とこからともなく吹き込む風から身を守るように膝を抱え込んだ。
その時、辺りには俺の爪を噛む音だけが、やたらと響き渡っていた。