第21章 Fade away…
近藤に手を引かれてホテルのフロントに向かう。
人目を全く気にする様子のない近藤に、俺の方が戸惑ってしまう。
けっこう名の知れた会社の経営者でもあり、レーシングチームを持っているくらいだから、それなりに社会的知名度はある筈なのに、全く自分を隠そうともしないし、体裁を気にすることもしない。
だから近藤といると、ついつい気が緩んでしまいそうになる。
俺は近藤の手を振り払うと、ロビーの片隅にあったスプリングの悪いソファーに腰を下ろした。
「早く受け付けしてきてよ。俺、疲れちゃった…」
「分かった。ちょっと待ってろ」
俺の意図を察したのか、近藤はフッと笑うと、颯爽とした足取りでフロントへと向かい、ルームキーを受け取ると、一瞬俺を振り返り、足をエレベーターに向けた。
それを見て漸くノロノロと腰を上げた俺は、近藤から一歩下がった所に立ち、エレベーターの到着を待った。
そしてエレベーターのドアが開いた瞬間、先に乗り込んだ近藤の手が俺の手を引き…
「えっ…」
俺はあっという間に近藤の腕に包まれた。
「ちょっ…、んんっ…」
両手首を捕まれ、息付く間もなく唇を塞がれる。
ねっとりと舌を絡められ、膝が崩れそうになるのを、近藤の腕が支えた。
目的の階数で止まったエレベーターのドアが開いた頃には、俺はもう一人で立っていることすら出来なくて…
近藤に撓垂れ掛かるようにして、薄暗い廊下を部屋に向かった。
片手で俺を支え、もう一方の手でキーを回す近藤に、もどかしささえ感じる。
キス一つなのに…、情けねぇ…
「入って?」
近藤に背中を押され、明かりの消えた部屋の中に入る。
暗くて良くは見えないけど、いつも近藤と会う部屋に比べたら、雲泥の差もあるかと思うような狭い部屋…
なのにベッドまでの僅かな距離が我慢できなくて、俺は近藤の首に腕を回すと、貪るようなキスをした。
きっと出がけに飲んだ一杯のコーヒーがそうさせているんだと思う。
身体が火照って…、疼いて仕方なかった。
それだけじゃない。
もう二度と戻ることは出来ない過去への喪失感…
色んな感情が、俺の体内を駆け巡った。
何もかも忘れさせて欲しい…
俺の心と身体の奥で燃え盛る欲の炎は、近藤が疲れ果て、眠りに落ちても消えることはなかった。