第21章 Fade away…
「分かった。でも智、君が本当にあの場所に戻りたいと…、そう思った時は、迷わず俺を頼ってくれ。いいね?」
まるで俺が眠って居ないことなんて見通しているかのように、近藤の手が俺の髪を撫で、頬を濡らした涙を拭った。
本当はその手に縋ってしまいたい。
でも俺にはもう、その手を取ることは出来ないんだ。
近藤の手まで罪に染めてしまうわけにはいかないから…
それに、俺のために自ら再び男娼に身を落としたニノを一人にはしておけない。
行きとは違って、緩やかな速度で走る車内で、俺はじっと瞼を閉じ、眠ったフリを続けた。
口を開けば、助けて…、と泣いて近藤に縋ってしまいそうだったから…
やがて車が止まり、近藤が俺の肩を揺すった。
眠っていると信じていたんだろうな…
「なに…?」
ゆっくり瞼を持ち上げ、わざとらしく瞼を擦った。
「今日はもう遅い。ここに泊まろうか…」
言われて窓の外を見れば、そこは寂れたビジネスホテルで…
「泊まる…って、ここに? アンタが?」
「そうだけど? 何か問題でも?」
「いや、そうじゃないけどさ…、以外だなって…」
「そう…かな? 俺だっていつも高級ホテルばっかり利用してるわけじゃないんだよ? 智に会う時は特別だからね…」
特別…か…
そゆな風に大事に扱って貰う資格なんて、俺にはないのに…
「さ、行こうか?」
「あ、ああ…。でも、いいのかよ、こんな勝手なことばっか…」
外出にしたって、外泊にしたって、俺達が普段禁じられていることばかりだ。
助手席のドアを開けられても、一向に動く気配のない俺を、近藤のクスリと笑った顔が見下ろす。
そっか…
どうして俺が近藤と言う男に、恋愛感情はないにしてもここまで惹かれるのか…
翔に似てるんだ。
顔が…じゃない。
纏っている雰囲気というか…、空気感みたいな物が似てるんだ。
なんだ…、だからか…
「どうした?」
「なんでもねぇよ…。つか、後でオーナーに文句言われても、俺はしらねぇかんな?」
「それなら心配ご無用。ちゃんと許可は取ってあるさ」
そう言って近藤は俺にウィンクを一つすると、腕を伸ばしてシートベルトを外した。