第21章 Fade away…
どうして俺の過去を聞き出そうとしたのか…
その理由が分かったのは、それから数分車を走らせた時の事だった。
それまでの見知らぬ景色が、見覚えの景色へと変わり、車が止まった場所は…
「どう…して…?」
俺が一番戻りたかった場所…
そして、もう二度と戻ることは出来ない場所だった。
「か、帰る…」
震える手でシートベルトを外そうとするけど、上手く出来なくて…
今にも暴れ出しそうな感情が涙となって零れ落ちる。
「どうして…、どうして、どうしてっ…!」
忘れたいのに…
もう二度と戻ることが出来ないのなら、記憶から全部消し去ってしまいたいのに…
どうして今更…
「君には申し訳ないが、君のことは調べさせて貰ったよ。と、言うよりは、知るつもりもなかったんだが、親切な友人が君のことを調べていてね…。それで…」
流れる涙を拭うことも出来ず、たた唇を噛むことしか出来ない俺を、近藤の腕が抱き寄せる。
「まだ…戻りたいかい?」
「もう…戻れない…。あの場所には…もう…」
「それは…どうして? 君の右耳が聞こえなくなったから? それとも…別の理由?」
知ってる…
近藤は俺の右耳が聞こえなくなったことを知ってる。
俺は腕を突っ張って近藤の腕から逃れると、俺の胸の奥まで見透かしてしまいそうな近藤の視線に背を向けた。
耳のことだけならまだいい…
でもそれ以上のことは…、あの事だけは絶対に知られるわけにはいかない。
「智、君がどうしても戻りたいと言うなら…、君が彼の元へ行きたいというのなら、俺が力を貸そう」
どうして…
どうして俺なんかのために、そこまで…
俺にそんな価値なんてないのに…
でも、ごめん…
「どうする、智?」
俺にはもう戻る場所も…腕も、ありはしないんだよ…
「戻る? 俺がどこに? 俺ね、好きでこの仕事してんの。第一、俺とオーナー…、潤とは切っても切れない関係なの。離れらんねぇのよ…。悪いな…」
それだけを言うのが精一杯だった。
自分の気持ちを隠し、ともすればアイツの名を叫び出してしいそうな心に蓋をするのが辛くて…
悲しくて…
俺はそっと瞼を閉じた。
眠れないことは分かっていたのに…