第21章 Fade away…
そんなある日、いつものように近藤の自宅に向かった俺を、近藤は行き先を告げるのとなく外へと連れ出した。
「お、おいっ…、そんな勝手なこと…いいのかよ…」
もし潤に知れたら…、近藤に会えなくなる。
近藤のことは嫌いじゃない。
勿論、恋愛感情かと問われたら…、それとは違うんだろうけど…
近藤と一緒にいると、自分を偽らなくて済むことが、俺にとっては一番の安らぎであり、唯一落ち着ける場所でもあった。
その近藤に会えなくなるのは、今の俺にとっては…自分が消えていく恐怖と、罪の意識に苛まれるだけの日々を過ごす俺にとっては、正直辛い。
近藤の車の助手席に座り、問い詰める俺を、近藤は一瞥することもなくハンドルを握り、アクセルを踏み込んだ。
自分でレーシングチームを持っていると言っていただけあって、近藤の運転は、翔の神経質過ぎる運転に比べてとてもスムーズで…
高速で駆け抜ける車窓から見る景色は、時折俺の脳裏を掠める走馬灯にも似た物があった。
「なあ、いい加減行き先くらい言えよ…」
身体をスッポリと包み込む、少し硬めのシートに背中を預け、一つ伸びをする。
「眠かったら寝てていいんだよ? 着いたら起こして上げるから」
車が走り出してから凡そ三十分…、漸く聞いた近藤の声は酷く優しくて…
「どこに連れてかれるかも分かんねぇのに、おちおち寝てられっかよ…。それより、何か話してよ…」
眠たくなんてない。
でも、一度睡魔に負けてしまったら…、起きられる自信は…、正直ない。
「話って…? 何を?」
「何でもいいよ。仕事の話でも…、元カノ…だっけ? 前に言ってただろ? 結婚考えた女がいたって…」
「その話は…あんまりしたくないな…。特別良い思い出でもないし…」
視線をフロントガラスに向けたまま、近藤が苦笑する。
「じゃあ他の話してよ」
「そうだな…、俺の話より、俺は智の話を聞きたいな…」
「俺…の…? なんで…」
どうして近藤がそんなことを言い出したのか…
その時の俺は全く分からず、
「俺は…人に話せるような…立派な人生歩んでないし…」
話をはぐらかすように、視線を車窓へと向けた。