第21章 Fade away…
こうなった原因は分かってる。
インポ野郎に最初にあのウィスキーを飲まされた時…
あの時から、少しづつではあるけど、自分が自分でなくなるような変化は感じていた。
そしてあの日…
一人ポツンと残されたホテルの部屋で、俺は拾ったんだ。
恐らくは、あのインポ野郎が落として行った物だろう、小さな瓶に詰められた、白い粉を…
ダメだ…、ソイツに触れたら、俺はもう二度と戻れなくなる…
頭では警鐘を鳴らしているのに、身体はソイツを求めるかのように動き…
光がスペアキーを使って部屋に飛び込んで来た瞬間、オレは咄嗟にソイツを枕の下に隠した。
そして何食わぬ顔で光を部屋から追い出し、シャワールームに逃げ込んだ。
まさかニノが来るとは、予想もしてなかったけど…
俺はこっそり持ち帰ったソイツを、仕事に出かける前、コーヒーに少量混ぜて飲んだ。
最初からは不安だった。
またあの激しい頭痛と胸の苦しみを感じると思ったら、怖かった。
でも不思議と恐れていたような症状は起こらなくて…
それどころか、その日のセックスは凄く気持ち良くて…
それまで滅多に自分から求めたりしなかったのに、何度吐き出しても足りなくて、何度も何度も…、それこそ客が音を上げるまで求め続けた。
だから…かな…
仕事に行く前には、毎回と言っていい程、ソイツを使った。
毎日毎日、代わる代わる違う男との、シたくもないセックスを強いられる苦痛から逃れたい一心で…
でも、無意識のうちに歌を歌っていたと言われた時、
このままじゃダメだ…
抜け出せなくなる…
そう思って瓶をシンクに傾けた。
水に流してしまえば…
こんな物、捨ててしまえば…
でも出来なかった。
結局、捨てることも、仕事前の一杯のコーヒーを辞めることも、俺には出来ず…
ニノが寝入った隙、ニノが出かけている合間を狙っては、ソイツを使い続けた。
ただ現実から逃げ出したいがために…
もう自分ではどうすることも出来なかった。
結果、ニノに手を上げることになるなんて…
「ごめん…、ニノ…」
チクリとした痛みと同時に感じた胸の苦しみに、指先から流れる血と一緒に涙が零れた。