第21章 Fade away…
不可解…と言ったら正しいのか…
自分では理解出来ないことばかりだった。
ホテルでの件もそうだ。
あのインポ野郎に薦められたウィスキーを飲んだ瞬間、聞こえない筈の右耳の奥でキーンと耳鳴りがして…
その直後に襲われた激しい頭の痛みと、焼け付くような胸の苦しさに、胸を掻きむしった。
そう…、そこまでは覚えている。
でも、それから次に目を覚ますまでの記憶が、見事に抜け落ちている。
気が付いた時には、インポ野郎の姿は部屋にはなくて、俺は一人シャワールームにいた。
それから光が血相変えて部屋に入って来て…、そのすぐ後でニノが…
多分…だけど、無意識のうちに近藤に電話をかけたんだと思う。
朧気…ではあるけど、「連絡を貰った」って光が言ってたし、大体からしてあのインポ野郎にそんな優しさがあるとは、到底思えないからな…
それにあの時だってそうだ…
ニノは俺が歌を歌ってたってって言ったけど、俺にその記憶はない。
そんなことが度々続き…
今俺が目にしているキッチンの惨状だ。
ニノが仕事に出かけている間、この部屋には俺以外には誰もいないんだから、俺が居眠りしている間に忍び込んだ泥棒の仕業だろうかとも思ったが、それはどう考えたって無理な話だ。
仮にニノが鍵をかけ忘れたとしても、ドアが閉まった瞬間に自動でロックがかかるシステムになってる以上、ニノが帰宅するまでの間、この部屋に他人が出入りすることは不可能だ。
それが可能なのは、潤だけ…
でも潤がこんなことをするとは、考えにくい。
…ってことは、やっぱり俺の仕業か…
それにニノの顔…
玄関ですっ転んだってニノは言ってたけど、とても転んで出来たような痕じゃないのは明らかだ。
だとしたら…
「なあ…、その顔…、本当に転んだけなのか? もし俺が…」
記憶にないこととは言え、もしそうならば…、俺は…
言いかけた俺の言葉を遮るように、ニノが“よし!”とばかりに気合いを入れる。
「さっさと片付けちゃおうか?」
「あ…、ああ…、うん…」
足元に気を付けながら、硝子の破片を拾うニノ…
何も言わないけど、だからこそ不安になる。
こんなことなら、
「お前がやったんだ…」
って、責められた方がよっぽどマシだ…