第20章 Omen…
「それともう一つ…」
と、前置きをしてから、近藤が席を立つ。
追加のビールをバーカウンターに取りに行くためだ。
「君が感じている“違和感”…だったかな? 確かに言われてみれば思い当たる節がないわけではない」
やっぱり…
何かが違うと感じていたのは、俺だけじゃなかった…
「それは、どんな…」
「とは言っても、あのホテルの一件以来、俺が智と会ったのは一度だけだから、ハッキリとしたことは言えないんだが…」
「それでも構いません。教えて下さい」
何でもいい…
この、俺の胸にずっと蟠っている違和感の正体が分かるのなら、何でも…
「君は智と一緒に暮らしているくらいだから、あの子の性格は熟知しているとは思うが…」
「それは…まあ…」
智とは昨日今日の間柄でもないし、他の奴らに比べれば、智のことは分かっているつもりだ。
「智はね、他の客の時はどうかは知らないが、少なくとも俺と会う時は、自分から行為を求めたりはしないんだが…。それが先週会った時には、まるで人が変わったみたいに求められてね…」
あの智が…?
誰にどれだけ抱かれようと、セックスに溺れることはない、って言い張ってた智が…?
自分から求めるなんて…、考えられない。
「それで近藤様は…」
「俺だって男だから、勿論性欲はある。ただ、その時は、疲れていたのかな…、そういう気にはなれなくてね…。適当に理由をつけて拒んだが…。そうしたら今度は突然泣き出してしまってね…。そうかと思えば急に楽しそうに笑いだしたりしてね…」
流石に困り果てたよ…
と、近藤は肩を落として苦笑を浮かべた。
そうか…、感情の起伏がやたらと激しいこと…、それこそが俺が感じていた違和感の正体だったのかもしれかい。
近藤の話もそうだけど、現に今日だって…
以前の智なら、あんな些細なことで激昴したりはしなかった。
寧ろ、俺のちょっかいを、柔らかな笑みを浮かべて受け止めてくれていた。
なのに今日は違った。
智が人に手を上げるなんてこと…、俺が知る限りこれまでなかったことだ。
神社でアイツらに無理矢理身体を開かれた時だって、キュッと唇を噛んで堪えていた智なのに…
今の智は、智であって智でないような…
まるで別人…、その言葉が俺の胸に深く突き刺さった。