第20章 Omen…
「そうか…、君がそう言うならソレを信じることにしようかな…」
悪戯っぽく笑った近藤は、瓶をテーブルに置き、膝の上で両手を握った。
「それで? 俺に何を聞きたいのかな?」
近藤が笑顔はそのままで、目の奥だけをキラリと光らせた。
だから俺も瓶をに置き、それまで丸めていた背中をピンと伸ばした。
「実は…」
俺は、ホテルでの一件、そして俺自身がここ数日感じている違和感について、隠すことなく近藤に打ち明けた。
すると近藤は、
「なるほど…」
と言ったきり、何かを考え込むように腕を組んだ。
近藤なら何か気付いてると思ったんだけど…
俺の思い違いだったんだろうか…
そう思って口を開こうとした、その時、
「君は智とは一緒に暮らしてるんだよね?」
「はい、まあ…」
「実は智からも君の話は良く聞いていてね…。親友だ、って…」
「智がそんなことを…」
以外…、だった。
親友だと思っていたのは、俺の一方的な思い込みだと思っていたから…
「そ、それであの…」
「ああ、済まない。それで、ホテルの一件についてだが、凡そ君の想像通りで間違いはない。智には、何か不足の事態が起きた時のために、密かに携帯電話を持たせておいた。ただ、本当に使う時が来るとは、夢にも思ってなかったけどね…」
やっぱり…
そうでなきゃ、あのタイミングで近藤から光に電話が入るわけがない。
「それで、その時智の様子は…」
近藤は長く息を吐き出すと、瓶に残っていたビールを一気に飲み干した。
「そうだね…、あまり思い出したくもないが、それは苦しそうな声でね…。誰だかは知らないが、ずっと名前を呼んでいたよ…、“助けてくれ”と繰り返し言いながらね…」
翔さんのことだ。
智が助けを求めるとしたら、翔さんを除いて他にはいない。
智はまだ翔さんのことを…
「本当は俺が駆け付けられれば良かったんだが、生憎その日は会議の最中でね…。仕方なく光君に連絡を…。それに俺にも立場と言うものがあるからね…」
確かにそうだ。
俺達を買うのは、どこぞの会社のお偉いさんが殆どだ。
コールガールならまだしも、コールボーイを部屋に呼んでは、夜な夜な遊び耽っているとなれば、それこそ立場が危うくなる。
立場を気にするのは、何も近藤だけじゃないんだろうけど…